2018年2月16日金曜日

松岡茉優さんの魅力が大爆発な「勝手にふるえてろ」



松嶋菜々子さんの「やまとなでしこ」や、仲間由紀恵さんの「トリック」など、美人の百面相(変顔ではない)を見せられると、どうしようもなく魅入られてしまうものですが、綿矢りささん原作、大九明子さん監督の「勝手にふるえてろ」の主役・松岡茉優さんには、久方ぶりに、「このまま、ずっと見ていたいな~」と思わせる美貌と演技力でした。

映画の概略ですが、田舎から都会に出てきた松岡茉優さん演じる主人公のヨシカは、もともとコミュ障気味のサブカル系女子。
「アーバンライフを満喫」なんて人生とは縁遠く、「タモリ倶楽部」をリアルタイムで見ることを楽しみにしているような日常。
気心の知れた親しい同僚はいるものの、そんな彼女にも彼氏が出来てしまって・・・・・。

以下、ネタバレあり。

SNSにも仲間を見つけられない主人公が、それでも世界に紐帯をつくろうとする行為が、日々、通勤や買物で出会う人を、勝手に話し相手に想定して繰り広げる脳内会話。

うーむ、エキセントリック・コミュニケーション。

そんな彼女ですから、当然、これまでの人生で恋人など皆無。
仕方がないので、学生時代にあった、うすーい異性へのトキメキを、十年経っても反芻しているという、牛もビックリな栄養補給。
と言うか、それ、もう栄養成分なくなっているよ・・・・・。

これで、まぁ、言い方は悪いが、「しおらしい」「いじらしい」というのであれば可愛げもあるが(男性目線)、コミュ障系の人間にありがちな内弁慶外地蔵という、二面性。
面白くないことがあれば、裏では「ファッーク!」と叫んでいるわけで、現実にいたら、超面倒な女性。

なんだけれども、松岡茉優さんが演じると、超キュートでして、・・・・・・まぁ、ここらへんの「現実」と「フィクション」の狭間に、苦笑いしたくなるのは、僕だけ?

ぶっちゃけ、松岡茉優さんくらい美貌があったら、性格に多少難ありでも、なんぼでも男が寄ってくるだろうし、そういう学生生活を歩んでいたら、ここまで性格がひねくれる(こじらせる)ことはないだろうし。

まぁ、それは置いておいて。

一念発起して、脳内彼氏を現実に召喚(再会)してみたら、あれ、頑張ったかいがあったよ、意外に良い雰囲気。共通の話題も見つけて、話も盛り上がる。こりゃ、一発逆転、スクールカーストを鯉の滝登りじゃーい! と思ったら、リアル彼氏(彼氏ではないが)は、主人公のヨシカのことなんて、全然覚えちゃいない。
いや、「全然覚えてはいない」わけではないのだが、ヨシカの望むレベルではなかったわけで・・・・・・まぁ観客からすれば、「いや、そりゃ、そうじゃん。そこまで求めるのは、おかしくね?」って、思ったんじゃないかな? 少なくとも、僕としては、この展開は、「ちょっと無理筋?」とは感じたけど、でも、ヨシカを気に入っている男性(霧島)のことを名前ではなく「二」なんて呼んでいるのと、同じこと。
リアル彼氏(彼氏ではないが)がヨシカを「なんとなくいた同級生」程度の認識であるように、ヨシカにとって霧島は「なんとなく私に好意を持っている男」程度の認識。

脳内彼氏に見切りをつけて、「一応、自分のことを好きと言ってくるから、まぁいいか」という、安っぽい承認欲求から「ニ」と付き合ってみるが、結局、彼女にとって記号でしかない「男」であり、「求めながらも、与えることはない」という身勝手な自分自身に復讐され、うまくいかずに破綻。

最終的には、「割れ鍋に綴じ蓋」という、永遠の真理に落着して、オメデトサンなんだが、「ニ」の霧島、前半のうざーい感じからすると、さて、うまくいくんだか、いかないんだか・・・・・・・。


とにもかくにも、松岡茉優さんの素晴らしかったです。
この演技見せられたら、他の監督さんも「使ってみたい!」と思うんじゃないかな・・・・・とwiki見たら、今年、是枝監督の作品に出るのね。

どんな役で、どんな演技をしてくれるのか、非常に期待が持てます。


勝手にふるえてろ (文春文庫)
by カエレバ

2018年2月12日月曜日

吉田大八「羊の木」



「羊の木」、見てきました。

観客の代理人として、なにも知らない主人公が出会う、いかにも訳ありなオーラをまとった六人の人間たち。
徐々に明かされる彼らの秘密と、そして加わる新たなる疑問。

時折、センセーショナルな場面がありつつも、基本的には意味深ではあるが穏やかな、はっきり言ってしまうと地味なシーンが続きますが、「これは撒き餌だな。こうやってエサをばらまいておいて、後半では一気に巨大な魚が釣り上がるんだ!」と思っていると、中盤の祭りにて、ようやく奇妙な人間たちが一堂に会する。

「これで、物語が動く!」と、心情的には前のめりになりましたが、結局、そこまで大きな事件は起きず。

また、同じような薄味展開。でも、きっと最後にはと期待していると、・・・・・・さすが、松田龍平さん、デビュー作の「御法度」では人間離れした美貌でしたが、直近の「散歩する侵略者」では、ついに人間を離れてしまいました。
今作では地球人に戻ってますが、しかし一般人とは思えない不気味なオーラを発し、背中だけしか映っていないのに、観客に得も言われぬ恐怖を味あわせてくれる。

他の演者にしても、適材適所、演技にも文句はない・・・・のだけれども、結局、六人の奇妙な人間たちの接触は、ほとんどなし。各々が個々で生きている。

田中泯さんの、ずばり彼のこれまでの生き様が分かる象徴的な登場シーンは、後に活かされることはなく。
また、優香さんにしても、「どうして、そういう関係になるの?」という伏線がなく、最終的には、彼女の言葉を、そのまま信じるしかないという、もやもや。
(田中泯さんと水澤紳吾さんのキャラは、一本にしようと思えば、出来たよなぁ・・・・。市川実日子さんにしても、物語の解釈の鍵となる「羊の木」の導き手ではあるのだが、それ以上でも、それ以下でもないか?)

そして、最大の不自然さは、主人公と松田龍平さんとの友情。
六人の人間を描かなくてはいけないこともあって、松田龍平さんからの一方的な友情も、最後の最後、主人公が松田龍平さんを説得する理由も(なぜ、逃げない!?)、いまいち説明不足で、ピンとこない。

群像劇は、登場人物たちの「交差する糸」に面白味を見出すか、人間や世界の多面性を表現することになると思うのだが、僕個人としては、どちらも物足りなかったなぁ・・・・。

つまらなかったわけではないのだが、吉田大八監督と言えば、どうしても、「桐島、部活やめるってよ」レベルを願ってしまうわけで、そうなると、今作、せっかくの前半の積み立てが、どうも活かしきれていたようには思えなかった。

by カエレバ

2018年2月9日金曜日

アメリカの村八分物語「スリー・ビルボード」


予告編を見た段階で、「あぁ、時が見える」という感じで、ラストまでの道筋が予測出来てしまう映画もあります。・・・・・基本的には、気楽に見れるタイプですな。

その一方で、予告編だけでは、「なんじゃ、こりゃ?」という映画もあります。
往々にして、既存の作品・物語には当てはまらないタイプで、この手は、けっこう体力・精神力を奪ったりします。

さて、「スリー・ビルボード」。

ヒューマンドラマ? サスペンス? 予告編からは、どんな着地点が待っているのか、さっぱり予想できませんでしたが、観劇中も同じ。


で、まぁ、ネタバレです。

最終盤で、どうにか救済されるのか? と思ったら、そこにも、どんでん返しが用意されていて、それでも反目していた二人が同じ目的を持つという、主人公サイドからすると、孤独から理解者を得るという「救済」が待っているけど、・・・・・・この物語では、元旦那はDVだったのか、殺された娘は母から逃げたがっていたのか等など、観客に解釈を委ねているように、ラストも、はっきりと「こうだね!」とは言えない感じ。


「戦う女性」というのは、昨今のホットなモチーフなんだが、・・・・それにしても、娘をむごたらしく殺されたとは言え、この作品の主人公が嫌な奴でね。

嫌な主人公と言えば、「サーミの血」なんかも、身勝手だったけど、非常に残酷な現実の前では、「まぁそうなるか・・・・」と。

「サーミの血」

それに比べて、「スリー・ビルボード」は、いくら現実に納得がいっていないとは言え、「それは八つ当たりでは?」「ないものねだりでは?」と思える場面も多くてね~。

昨年話題だった「エル ELLE」なんかも、「嫌な女性」・・・・というか、「一筋縄ではいかない女性」という点では共通しているが、それでも予想の出来ない動きはしていても、「理不尽」ではなかったような?

女性主人公の行動が尽く真逆「エル ELLE」


「スリー・ビルボード」において、主人公の娘は、母親との諍いの結果、普段は車で移動していたのに、その日だけたまたま「歩き」になってしまい、それが最悪の事態に結びついてしまう。

もちろん、一義的には犯人に責任があるのだが、どうしたって、(母として)自分のミスであるという後悔を抱いて当然なわけで、でも、それでもって耐え忍ぶのではなく、攻撃性(怒り)に転嫁しているのが、まぁ、なんというか、「現代的」・・・・なのか?

それよりも、その「怒り」が、容易に「(直接的な)暴力」に結びついてしまうあたりが、「アメリカ」的なような気がするけど(ただし、監督・脚本はロンドン育ちだそうで)。

メインの二人のキャラには、自殺した署長からの「恩讐を超えろ!」的な遺言が届き、それが転機になって、前述したように反目から仲直りに反転するが、で、ラスト、二人で人殺しへの旅出(実際に、殺すかどうかは分からんのだが)、・・・・結局、暴力かいな? と思わんでもないなぁ・・・・・。

物語の中では、既存のキリスト教が、主人公によってさんざんに否定されているけど、署長の遺言って、やっぱ、どこか宗教的。

女性蔑視・差別主義な大統領が、博愛を唱えるキリスト教保守派によって支持されているようなお国柄らしいオチと言えば、オチなんだが。


by カエレバ