2016年11月28日月曜日

なんとなく見てきた「聖の青春」



現在の日本で、現役でありながら既にレジェンドというと、野球のイチロー選手と、棋士の羽生さんでしょうか?

七冠だもんね。
漫画よりも漫画みたいな強さでして、その偉業があるからこそ、「月下の棋士」における滝川名人にしろ、「3月のライオン」における宗谷名人にしろ、逆輸入でリアリティが生まれるというか、有り様が自然になってしまうというか。

その存在感たるや、未だに堂々としたものがあります。

で、その全盛期の羽生さんを苦しめたと言われる、村山聖棋士の映画が「聖の青春」になります。

原作は、大崎善生さんによるノンフィクション「聖の青春」。
漫画化、舞台化もされて、今度は映画。


平日の昼間に映画館で鑑賞したのですが、観客は、まぁまぁはいってました。
時間帯もあるのでしょうが、若い人はおらず、だいたい六十前後で、男女半々。


内容ですが、一言であらわすと、「天才の夭折モノ」。
ぶっちゃけ、泣けるに決っている。

後は、まぁ、主人公に、どこまで共感やら同情、憐憫が生まれるかなんだけれども、・・・・・・病気のせいなんだけれども、「怪童」と呼ばれた容姿。

「3月のライオン」の二階堂のようなキャラなら愛されもしようが、映画内では、独り善がりのこだわりをもった傲岸不遜で、人を人とも思わない人間として描かれています。

難病を患っているのにお酒やジャンクフード大好きとか、少女漫画が趣味で女性には奥手という側面は、料理の仕方によっては、「愛くるしい」と観客に思わせることができるのでしょう。(たとえば「寅さん」のように)
でも映画では、まったく同情ができない困った人間として描いているのが、偉いようなムゴイような。

場面によっては「キモイ」キャラになっていまして、まぁ作り手としては、リアルを追求した結果なのか、故人に敬意を払ったからなのか。(漫画っぽくなることを回避したかった?)


主人公が、そんな感じなので、カタルシスの得難い映画になってました。


松山ケンイチさんが役作りで激太りしたことが話題でしたが、出演者全員が適材適所で熱演。

なんだけれども、一方で、師弟愛やら親子愛、羽生さんとのライバルだからこその心の交流とか、決して詰め込めすぎてはいないけど、どこか焦点がボケてしまっているような・・・・・。
ここらへんの加減は、難しいところなんだけれども。


「意外」と言っては失礼なのだろうけど、東出昌大さんの羽生さんの役作りは、すごかったね。
イケメン若手俳優にはありがちだけど、「人気はあるようだけど、どれやっても同じ人にしか見えない」というのが東出さんのイメージでしたが(後は、杏さんの旦那)、今作では、羽生さんよりも羽生さん。
歩き方まで似せていました。


まぁ、かわいそうな話ではありますが、村山聖棋士の人生が未だに語られるのは、羽生善治というレジェンドがあってのこと。

山本おさむさんの漫画のタイトルは、「聖 -天才・羽生が恐れた男-」だもんね。

映画内でも、主人公・聖は、自分の命が長くないと分かっているから、羽生さんとからの一勝は、普通のプロ棋士の二十勝分に値すると述べている。
短い人生かもしれないが、將棋の歴史に燦然たる名を残すことになる羽生さんから勝利をもぎ取ることは、この世界に自分という存在の爪痕を残す最善の方法であるわけでして。

その「あがき」が、まぁこの映画の肝。

ならば、主人公と同等くらいに、羽生さんの完成度が求められるわけでして、そりゃ、力も入るわけだ。

羽生さんの、あの独特な聖人的空気感は、大変素晴らしく再現されていました。
(が、勝負師の面は、ちょっと弱かったかな? と思わないでもないですが)

聖の青春 (講談社文庫)
by カエレバ