2016年10月16日日曜日

「ニュースの真相」、製作者の思いは分かるが


まぁ、こんなもんか


「ニュースの真相」を見てきました。

アメリカでは2015年公開で、日本では翌年に持ち越し・・・・・という流れからすると、「あんま話題にならなかったな(=ヒットしなかった)」というのが透けており、正直なところ、あんまり期待はしておりませんでした。

で、見終わった感想ですが・・・・・・、案の定、「こんなもんか」という感じ。


あらすじ


2004年、二期目を目指す共和党ブッシュ大統領と、それを阻止すべく、民主党ジョン・ケリー氏は、激しい選挙戦を繰り広げていた。

そんな中、CBSニュースでは、ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑を報道する。

大きな話題となるのだが、しかし、番組の中で提示された証拠が「捏造ではないか?」という指摘がされる。

ニュースを報道した現場では反論を試みるのだが、徐々に劣勢に立たされて・・・・・。


で、物語は、「ブッシュ大統領の不正を暴くぞー、おぉ!」と現場の奮闘、「ついに報道できた!」と盛り上がるけども、あっと言う間に追い詰められて・・・・・という感じで、流れに起伏があるんだけど、いろいろと盛り込み過ぎなのかな? 登場人物に感情移入し難いのかな? 映画の中では多くのイベントが発生しているのに、見ている方は、なんか平坦というか、平板というか、イマイチ乗れない。

劇中の重要な二人の人物について、他の登場人物が、「彼らは親子みたいなもんだ」と言わせるのは、「それは観客に気づかせるのが重要なのであって、口にしたらお終いでしょ」と興醒めだし、そして、親子的な絆があるようには結局見えない・・・・・。


が、まぁ、最大の欠点は、あまりに「共和党大嫌い!」「保守派のバカヤロー!!」が色濃いことか?(個人的には、共和党よりも民主党の方に頑張って欲しいと思っているが)
だって、ラストシーンでブッシュ大統領の再選が決まって、主人公たちはやけ酒飲んでいるって・・・・・、そりゃ、あんまりだ(分かり易過ぎだろ)。

そんな感じ。
政治色・党派色が強過ぎて、「このお話しって、どこまで信じていれば、いいんだろう?」と不安になるんだよね・・・。


とは言うものの


とは言うものの、まぁ、製作者側の言いたいことも、よく分かるけどね。

民主党ジョン・ケリー氏は、ベトナム戦争で叙勲している。
選挙戦では、その叙勲すらも中傷に遭ったようだけれでも、従軍した事実は揺るがない。

に比べて、当時(今も?)、イラクとアフガンという孫子もビックリの二正面での戦争をしていながら、当の最高指揮官であるブッシュ大統領は、ベトナム戦争には従軍していない。
しかも、政治的な力をもってベトナム行きを免れたという客観的証拠はともかく、状況証拠は数多上がっているわけで。

で、2000年にしろ、2004年にしろ、大統領選挙は、かなりの接戦。
2000年の場合は、ブッシュ氏は選挙人では勝ったものの、総得票数では民主党のゴア氏に負けているわけで、・・・・・熱心な支持者からすると、大統領選出過程も納得できないし、最高司令官としても納得できない。

そんな人間が大きな戦争を始めて国をメチャクチャにしたわけで、もし「軍歴の疑惑」が、ちゃんと報道されていれば、こんなことにはならなかったはず、・・・・・・という思いが強いんだろうし、だから、こういう作品になったんだろうなぁ。


ネットの台頭


ブッシュ大統領の軍歴疑惑報道はデタラメ--ブロガーがCBSに異議申し立て

しかし、この映画を見て、改めて思い出したのだが、CBSニュースの顔であるダン・ラザーを引きずり下ろしたのは、ネットなんだよね。

もう10年以上前の出来事だけど、以降の時代を象徴するような事件だったんだなぁ。


そして、主人公が、「小さな瑕疵をあげつらって、問題の本質から目を背けている(本質から目を背けるように仕向けている)」、つまりは、「木を見て森を見ず」だというラストでの主張も、現代的だね~。


現在絶賛吊し上げ中の豊洲移転問題なんかも、話題が「盛り土」に集約されてしまって、「なんだかなー」という感じ。

他にも、従軍慰安婦問題における朝日新聞やら、南京事件、沖縄の米軍基地、原発等々、左右・保守革新を問わず、枝葉末節をあげつらって、「ほれ、みたことか!」と勝どきをあげている姿を、しょっちゅう見かけるのだが、さて、相手の主張の一部分を否定できるからと言って全体を否定できるわけでもないし & 自説が全肯定できるわけでもない。

なんだけれども、「政治」になると、局地戦の限定的な勝利も大勝利と宣伝され、寸土の譲歩ですら無条件降伏と非難されてしまうわけでして、結局、殲滅戦の後に残るは、「なんだか、誰も幸せになってない気が・・・・」という焼け野原。

なんとなーく、漠然と、ネットの普及によって、こういう傾向は促進されてしまったような気がするけど、さて、どうなんでしょう?


まぁ、ともかく、そういう現代的な課題・風潮の描写もあるだけでに、ちょっと惜しかったなぁ・・・・。

大統領の疑惑
by カエレバ

2016年10月3日月曜日

クリント・イーストウッド監督「ハドソン川の奇跡」


いつ死ぬんだよ


現代の馬援と言えば、クリント・イーストウッド。

御年86才。

まだ新作映画をつくるよ・・・・・・。

前作、「アメリカン・スナイパー」も、とても80を超えた監督の作品とは思えない、現代の映画でした。
クリント・イーストウッド「アメリカン・スナイパー」の感想


そして、今作は、2009年にアメリカで起こった「USエアウェイズ1549便不時着水事故」を扱っています。
USエアウェイズ1549便不時着水事故 - Wikipedia

たった七年前の出来事。

まぁ、ほんと、「老いてはいよいよ壮(さかん)」です。(下衆の勘繰りだけど、スタッフが優秀なんだろうなぁとは思ってしまうけど。まぁ、その優秀なスタッフの中心に、たとえ象徴としても存在していることで、名作が生まれるのなら、それはそれで、スゴイのだが)

バランス感覚


クリント・イーストウッド監督と言えば、ゴリゴリの共和党支持者として有名です。(ハリウッドでは、民主党支持が優勢で、珍しい存在なのでは?)

クリント・イーストウッドがトランプ氏支持 「軟弱な時代だ。誰もが発言に細心の注意を払う」

民主党憎しで、トランプ氏でも許容してしまう、「器の大きさ」というか、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」というか、「敵の敵は味方」というか。(THE共和党であるレーガンの後継者として共和党大統領となったパパ・ブッシュ氏も、「こりゃ、駄目だ」と匙を投げましたが・・・・・・。■ブッシュ父「クリントン氏に投票する」 共和党の元大統領が異例の告白)


政治的には、ちょっと偏ったところがあるんだけれども、そして、年を取れば、より偏狭になるものだが、つくる映画は、けっこうバランスがとれているんだよね。

日本でも、たまぁーに、保守色濃厚な作品がつくられることがあるけど、所詮、国内限定にならざる得ない。

それに比べると、クリント・イーストウッド監督の作品は、日本人でも十分に理解できる普遍性を持っているわけで、なんだか不思議。
「優秀なスタッフが、下支えしてるんじゃねーの?」と勘繰りたくなるわけです。

あらすじ


で、「ハドソン川の奇跡」。原題は、機長のニックネーム「Sully」。
まぁ、分かりやすいタイトルが求められるし、「Sully」では意味分からんなのだが、それにしても、身も蓋もない邦題だね。

作品の粗筋。
バードストライクで飛行不能になった飛行機を、機長は見事にハドソン川に着水、奇跡的に乗客乗員に死者を出すことはなかった。

偉業に対して、マスコミは賞賛を惜しまない一方で、政府は、「本当は空港まで戻ることが出来たのに、機長の判断ミスで着水したのではないか?」と疑い始めるのであった・・・・。


「父親たちの星条旗」「アメリカン・スナイパー」でも、一般人が、英雄と讃えられる一方で、歴史・社会・政府に翻弄されるという物語でした。

「硫黄島からの手紙」も、栗林中将はモンスターや英雄というよりも、一人の人間として描かれていましたし、「インビクタス/負けざる者たち」のマンデラ大統領も、似た感じかな? そもそも、主人公は、マンデラ大統領ではなく、(一応は)選手だし。

「ハドソン川の奇跡」も、そんな流れの作品です。


映画の主人公を演じるのは、善人「トム・ハンクス」。

突然の大衆からの英雄視に戸惑いながらも自分を見失ず、家族への愛を忘れず、驕ることなく、かと言って卑下することもない機長が描かれています。
こういうのが、「宣伝くせー」とはならず、「ほっこり」として受け入れられるのも、さすがトム・ハンクスさんです。


でも、映画内では、分かりやすいニコニコ顔は封印。
敢えて渋面ばかり、・・・・・・でも、善人という演技。ここらへんは、ちょっとヒネったね、という感じ。

なんで、そんな顔になってしまったかと言うと、絶えず政府からミスを疑われているから。

偉くなくとも


主人公は、アメリカ社会において、妻を娶り、子供をもうけ、40数年間、パイロットして粛々と仕事をこなしてきた。
それは、英雄的な行為ではないかもしれないが、アメリカ社会に限らず、ある地域・組織・団体においては、決して恥ずべき経歴ではない。

そして、その地道な積み重ねがあって、「ハドソン川の奇跡」を成し遂げることが出来た。
不幸中の幸い。

しかし、劇中において、機長を追及する側の人間たちは、その粛々と生きてきた彼の人生を、まったく省みようとはしない。

単純にコンピューターのシュミレーションから、「こういう可能性があったはず」と責め立てる。(現代的な世知辛さと言いたいところですし、映画内でも、どことなくそんな雰囲気ですが、まぁ、いつの時代も似たようなもんでしょうね・・・・・・)

よしんば彼の判断が間違っていたとしても、最悪の事態を想定して、現場で出来うる最高の判断を下しに過ぎない。
己の技量を最大限に発揮しての着水だったはず。


ここらへんの、

・「偉くなくとも正しく生きる」を地でいっていたような人物

と、

・傲慢な政府(官僚組織)

の対比は、すごく健全な保守思想を背景にしているようなぁー、個人的には思いました。

で、まぁ最終的には、機長の昔ながらの経験やら知見の積み重ね(過去こそが大事という意味での「保守」ですな)が勝利するんだけどね。


上映時間は90分。

物語上、盛り上がるのは、当然、「飛行機が不調となり、川に着水するまでの流れ」。
普通に考えると、冒頭か最後に挿入するしかないように思えるんだが、映画では、ある程度物語が進行してから、不時着のシーンが挿入される。

しかも二回も。

普通、こんなことしたら、「なんだか冗長だなー、繰り返す必要あるの?」と思ってしまうけど、「機長の判断の、なにが問題とされているのか?」が明確になってから、再度の着水シーンになるので、ちゃんと緊張感を伴って見ることが出来る。

ここらへんのさじ加減も、絶妙ね。

で、映画内では、家族愛を描きつつ、夫婦愛で留めて、無理に娘達を絡ませないあたりも、「分かっているなぁー」。

なんだけれども、あんまりにも、まとまりが良くてねー。
そのせいで、逆に、小品に留まってしまった感じがします。

ハドソン川の奇跡
by カエレバ