2015年6月6日土曜日

浅野いにお「うみべの女の子」


「ソラニン」も面白かったし、そう言えば、文化系トークラジオライフの鈴木さんも褒めていたような気がするなぁー。
という程度で、手にした浅野いにおさんの「うみべの女の子」。
(「ソラニン」の感想 ■浅野いにお「ソラニン」)


「ソラニン」と同じで、開始数ページで、すっかり引き込まれてしまう。

でも、この物語を解体するのは、ひどく難しい。

数回読み返したけど、未だ、「自分なりに理解した」と思えない。

相変わらず綺麗&濃密な絵で、ひっかかりなく、スラスラと読むことができるんだけど、終わってみると、「これは、どうすればいいんだろう?」と悩む。


主人公は二人。

中学生の女の子、小梅。
同じく中学生の男の子、磯辺。

この二人が惹かれ合い、肉体を求め合い、傷つけ合う物語。


で、ネタバレですが。(今回は、特に営業妨害並みに詳述しております)

あまり頭は良くないし、運動ができるわけでもなく、とりたてて取り柄もない小梅。
だが、まぁ、顔は、それなりに悪くない。(すごい美人というわけではない、でも、まぁ美人という設定だと思う)

彼女は、イケメンの先輩である三崎に告白するが、いきなりフェラチオを強いられる。

そのショックで、磯辺とセックスをすることに・・・・・・。


まぁ強引と言えば、強引な始まりだけどね。(現実にあるのか、そんなこと。フェラチを強制されるというのは、あるかもしれないけど。その後に腹いせのように、セックスをするなんて)

ただ、小梅自身は、自分に対して、自信がないタイプなのかな?
または、自己というものを確立していない。

だから、流されるままに、フェラチオをしたけど、自分の肉体を求められたのならまだしも、単に都合の良い性処理の道具にしか見られなかったのが、彼女なりにショックだったということらしい。

で、自分は求められていると思いたいばかりに、かつて、告白してくれた磯辺に命令するようにして、セックスをする。(両者ともに、初体験)

磯辺というのは転校生で、地元に根付いていない。友達も少ない。
誰かに言いふらす可能性は少なく、小梅にとっては、好都合な存在。

そうして、体の関係はあるけど、精神的な交わりを拒否するという、便利な関係を維持していく。
が、まぁ、何度も体を重ねれば、情も移るというもので、徐々に、恋人同士のような雰囲気も生まれる。


ただ、磯辺には、兄貴が自殺してしまったというトラウマがあるんだけれども、小梅には、決して明かそうとしない。

体は開放しておきながら、心の最後の一線を越えられないという状況は、二人の関係を徐々に引き離していくことになる。


「漂着神」とか「まれびと」とか、異界から来るモノをありがたがる、という考えがあります。

漂着神
まれびと

まったく詳しくないので、解説はできないのですが・・・・・。

小梅にとって、磯辺は、異界(都会)から来た人。(磯辺という名前が象徴するように、異界から届いた漂着物なわけだ)
前述のように、地元に根づいていないから、便利なんだよね。


で、不幸なのは、磯辺にとっては、小梅は別に特別な存在ではない。

彼にとっての「まれびと」的な存在は、浜辺で拾ったSDカード内の画像ファイルに写っていた女の子。
彼は、彼女を「うみべの女の子」と名付ける。

美人でグラマーで、幸せそう。

・・・・・磯辺ったら厨二病患っているわりには、存外、スノッブなものが好きだな? と思ったのは、僕だけ?

まぁ、いくら悲劇のヒーローだと自惚れる年頃であっても、一皮はいでしまうと、そんなもんなんでしょうけど。

強いて言えば、成熟した女性(と言っても、「うみべの女の子」は、所詮、高校生なんだけど)への憧れなんだろうなぁ。(自分が未成熟なことの裏返し)


で、「うみべの女の子」が、磯辺にとって「陽」の特別な存在だとすると、その対局「陰」に位置するのは、自殺した兄貴。

海で死んだということもあって、度々、海に浸かっているシーンが挿入される。
そのことからも、彼が「うみべの女の子」の影であることが示唆されている。


受験に対する違和感から、小梅は、世界から隔絶、または外界を拒否して生きるような磯辺に、ゆっくりと魅了されていく。(あくまでも「違和感」というところがミソでして。彼女の場合、苛立ちにはならないんだよね)

で、磯辺の大事にしている「うみべの女の子」の写真を、嫉妬で、パソコン上から消去してしまう。

もちろん、怒る磯辺。
俺のパソコン
他になんか
いじったりした?

書きかけの
ブログなんかも
見ちゃったりした?
で、まぁ「うみべの女の子」と、死んだ兄貴は、陰と陽で、彼にとってセットなんだよね。

死んだ兄が残していったブログを、磯辺は継続して管理をしており、そこにも小梅が介入したのではないかと訝るわけだ。

そうやって、磯辺は自分を理解しようとしない小梅に怒りを抱き(そもそも、彼が開示しようとしないのだから、仕方ないのだが)、二人は離れていく。


さて、鹿島。
今流行(?)の言葉でいうところのマイルドヤンキー・・・・・というよりは、ヤンキーか?

磯辺の同級生で、小梅の幼馴染。
そして、彼女を想っているのだが、まったく相手にしてもらえない。

小梅は気づいてもいない?
いずれにしろ、土着の象徴である鹿島(茨城が舞台のようだけど、鹿島という名前からして、茨城だよな~)を、小梅が好きになるわけもなく。

そして、鹿島にとっては磯辺は、部外者。
小梅にとっては珍重すべき存在ではあるけれども、同質性を尊ぶ(ヤンキーは地元が大好き! 地元が一番♪)鹿島のような人間とっては、目障り。
しかも、恋のライバルとあっては、許せるはずもなく、磯辺に暴力を振るう。

が、暴行現場は、途中で取り押さえられる。

教師たちは、どういう事情があったのか問い質そうとするのだが、磯辺は、むしろ鹿島を庇う。
というよりは、憐憫と嘲笑でもって、彼の暴力に報いる。
野球と仲間を
失ったら何も
残らない君が
そんな事する
訳ないよねぇ?
兄を殺したのも、この異質なものを排除しようとする田舎的圧力だと悟った磯辺は、この事件を経て、復讐を決意する。


で、磯辺に邪険にされた小梅は、再びフェラを強要してきた先輩と会うことに。

まぁ、ここらへんが、
掘り下げても
全く面白味のない
どこにでもいる
つまんない女だよ?
と、磯辺に評される所以でして。

そして、やっぱり性処理の道具として扱われて、また傷ついて帰ってくるという、頭の悪さ。
さらに頭の悪いのは、結局、一旦は離れた磯辺に戻ってしまう。

まぁ惚れてしまった弱みなんでしょうか・・・・。

磯辺の親は仕事で家にいない。小梅の親も親戚の家に行っている。ということで、普通のセックスだけはなく、フェラチオ、69、アナルセックス、前立腺マッサージ、ついにはスカトロまで堪能する二人。

「なんだよ、中学の先輩に、性処理の道具にされたことを苦にしている割には、いやにノリノリじゃねーか」と思うんだけど、多くの行為は、磯辺の希望であり、小梅から望んだことじゃないんだよね。

だから、彼女は、
してもしても
何か足りない
気がするのは
なんで
だと思う?
と言う。

絵を見れば分かるけど、彼女は、磯辺からキスして欲しかった。
「愛している」という言葉は無理でも、せめて行為で示して欲しかった。が、それに対して、磯辺の言葉は、
興味ないね
「なに言ってんの?」や「意味分かんない」、無言ではなく、「興味ないね」。

彼女が何を求めているのか分かりつつ、彼は、そんなものを要らないと言い切っている。


「アナと雪の女王」にて、アナが悪い王子様にキスをされそうで、されないで終わるシーンがあります。
これは、もともと、キスをする予定だったのを、「本当に悪いヤツなら、キスをしない方が、悪役らしい」という女性スタッフの意見を尊重して、そうなったそうです。

悪いやっちゃな、磯辺。

または、幼いよね。
ある意味、純粋。

自分は女の体を求めているだけで心は望んでいない、という陳腐なプライド。

彼女が望んでいるものを自分は提供できないと知っているからこその、拒絶。

嘘でも「愛している」とは言えないし、素振りすら見せることができない。

そう考えると、磯辺なりに小梅のことを大事に思っているということになるけど・・・・さて。


そして、さんざん性を貪りつくした翌朝、小梅は家に帰る。
彼女が消えた部屋の中で、
・・・どうせ
ひきとめたって
お前は
どうせ
いつか家に
帰るんだろ

・・・無駄に
期待させる
なよ

・・・鬱陶しい
と、磯辺はつぶやく。


最終的に彼らが理解し合えない決定的な原因は、小梅は友達にも恵まれているし、家庭にも、大きな問題はない。
それに比べて、磯辺には友人はいないし、家庭環境はよろしくない。(兄貴は自殺しているし)

そして、その環境の劣悪さを、小梅に嘆くことができない磯辺の中学生らしい潔癖さ。
その絶望が、自らに歩み寄ってこようとする小梅に対して、
・・・お前は
何も
知らなくて
いいんだよ
となる。

愛なのかね~
どうなんだろう~


でも、まぁ、その後、三崎への襲撃を決意する。

小梅を傷つけた男であり、見た目からしてヤンキー。
地元・・・・・小さな小さな世界で覇を唱える井の中の蛙、サル山のボス。

でも、それは、兄を殺した世界ともつながっている。
テメーの理屈を
押しつけてくる
バカが多過ぎる

バカの一番
悲しい所は
そのバカさを
説明しても理解
できない所だ

誰のこと
言っているか
わかるか?

お前だお前だ
お前だこの
勃起野郎

俺は
俺の理屈で
お前の内蔵を
ひきずり出して
屈辱的な死に様を
世界中に晒して
やる
かつて、鹿島に暴力を振るわれた際の宣言を、磯辺は、ここで実行し、一応、成功する。(三崎らが持っていた大麻が、警察にばれるという形で)


完全とは言えないながらも、一応は兄貴の復讐を果たす。

その後の磯辺に待っているのは、報酬なのか、兄貴の呪いからの解放なのか、「陽」として存在している、「うみべの女の子」との出会い。


で、「もともと、海辺で拾ったSDカードの写真の女に惚れるなんて、えらくスノッブだな~」とは思っていたけど、結局、素の磯辺って(磯辺に限らず厨二病を患っている多くの男子諸君)、そんなもんなんだろうね~

小梅が混乱するくらいに、磯辺は、普通の前向きな好青年に変身してしまう。

「自殺するって、なに? おれ、真面目に勉強して、「うみべの女の子」と同じ高校に行って、がんばって、彼氏にしてもらえるように努力するよ♪」
てなことを言い出す始末。


まぁ、小梅にしてみると、東京から恐山まで歩いて行って、イタコによんでもらった太宰治に、「生まれてきてラッキー」と言われてしまうような心情でしょうか?(この喩えは、強引だと我ながら思う)

しかも、最後にキスをしてと小梅は願うが、それまで、はねつけられてしまう。


でも、これは、小梅の暗にキスを求められて、「興味ないね」と発言していた磯辺とは、また違う。

幸せな家庭の子である小梅を自らの世界に引きずりこむことに躊躇いがあった昔とは違い、今度は、勝手な期待を押し付ける彼女の存在が重荷になっている。

しかも、小梅が求めているのは、過去の自分であり、今の自分ではない。

で、磯辺は小梅を振り切り、新しい自分の人生を生きられるかと思ったが、結局、兄貴の呪いからは逃げられず、警察に連行されていく。
自分の腹黒さに
無自覚で平然と
生きてられる奴が
世の中多過ぎるから

俺等は
生きているだけで
息が苦しいって
ことを

お前は
一瞬でも想像
したことある?
これは、「うみべの女の子」の写真を捨てられた際に、磯辺が小梅に言った言葉。

まぁ、これは、小梅を批判したようで、兄貴を殺した「奴」(同調圧力、空気、ヤンキー)を指しているわけで(だから、「俺」ではなく、「俺等」となっている)。

だから、
磯辺は
好きな人は
いないの?
と小梅から聞かれて、
優しい人
と磯辺が答えることにもつながる。

でも、結局、小梅を排除する&傷つけることで関係を解消しようとした結果、磯辺自身が「奴」になってしまう。
で、兄貴は成仏できずに、戻ってくるわけだ。


兄貴が自殺と知っているのは、遺書を見つけて、処理をした弟の磯辺だけ。
磯辺は、
両親を無駄に悲しませたくなかったんです
と言っているけど、どうなんだろうねー。

兄貴は、敢えて、弟の誕生日に死んでいる。
磯辺自身も、
もしかしたら兄は僕に無言のSOSを送っていたのかもしれないし、それに気付かない僕に苛立ちを感じていたのかもしれません。
と書いている。

磯辺こそが、本当は、兄貴の自殺の原因だったのかな?
うーむ。
それは、ちょっと考え過ぎか・・・・・。

でも、まぁ、最終的には、兄貴の呪いを振り解くことのできなかったラストを見るに、この磯辺の自覚というのは、示唆的ですなー。


で、警察に連行されてからの磯辺の、その後については、語られていない。

まぁ、少年鑑別所なり少年院に入らないにしても、転校はしなくてはいけないだろうなぁ。


磯辺に捨てられる形になった小梅だが。
悲しいよ
何が
悲しいって

きっと佐藤は
高校行ったら
今日のことなんか
しれっと忘れて

それなりの男を
普通に好きになって
まるで初めてみたいな
セックスをするんだ
と磯辺に言われた通りに、エピローグ的な最終話にて、高校に受かり(水戸の高校だ!)、友達もちゃんといて、早速、新しい彼氏のいる小梅が描かれている。

が、妙にマニアックなマンガや音楽を好んでいる描写もあって、彼女が、磯辺をひきずっているのか、どうのかは、よく分からない。

彼氏の容姿も、まぁ、多少は磯辺的。(ザ・サブカル男子、という感じ)


作者としては、「よく分からないで正解よ。後は読者の思いたいように思って下さい」なんだろうけど、さて、このメッセージを、どう受け取るべきなのか。

磯辺には許さなかった、であり、許してくれなかった唇を、新しい彼氏には与えているけど、キスの後に、どうも、釈然としないような顔をしている。


うーむ。


まぁ、そりゃ、一般論の話をすれば、誰だって、前の恋人を引きずって生きているものです。(あれほど愛し合ったのに、人は、直前の彼氏彼女について、あぁも、悪しざまに言うのは何故だろう!?)

だから、小梅が、磯辺のことを引きずっているのも、当然と言えば、当然。


だけども、「一般論」の範疇で引きずっていうのか、「病的」に引きずっているのか(自殺した兄貴を引きずっている磯辺のように)。
その二つには、雲泥の差があるわけでして。

どっちなんだろうなー。


そして、この物語の最終回を語る上で、触れなくてはいけないのは、小梅も、SDカードを、海辺で無くしてしまうんだよね。

もちろん、それは、磯辺が拾ったSDカードの中にいた「うみべの女の子」を想起せざる得ないわけで。

単純に考えれば、磯辺が望んでいた「うみべの女の子」は、結局、小梅だったんだよ・・・・・てことになるだろうけど。


で、冒頭とラストで語られる、この小梅の言葉。
この街には
真夏になっても
あまり賑わうことのない
小さな浜辺があって

自分はその浜辺を
何かを探しながら
歩くのが好きだった

しけた花火とか

昆布とか

風に飛ばされた
誰かの帽子とか

たいてい期待したものは
見つからないし

もしかたら初めから
何も期待なんて
してなかったのかも
しれないけど
小梅にとって、磯辺は、浜辺に流れ着いたものだった。

が、結局、磯辺には排除されて終わる。
憧れていた先輩である三崎は、
歳上のくせに
ガキっぽいし
なんかチャラくて
うざいし
てな、程度の男であった。

で、高校で新しい男を手に入れても、そんなに満足しているようには見えない。

最後の最後で、浜辺で出会った鹿島は、小梅に、こう言う。
お前はお前の
未来を信用しろ

もしそれで上手く
いかなかったなら
俺がお前の面倒
見てやるよ
それに対して、
・・・鹿島は
きっとこれから
モテると思う
と、小梅ははぐらかす。

鹿島は親友(?)の彼氏だから、当然ではあるけど。

でも、「面倒なんか要らねーよ」という自立を表明しているようにも思える。

だから、
・・・・・・あ
見つけた
と言っている。

おそらくは、見つけたものはSDカードではない。

SDカードの入っていたカメラは、今の彼氏からのプレゼントなんだよね(オヤジからもらったカメラって、どうなったの?)。

でも、もうそれは、彼氏にとっては大事かもしれないけど、小梅にとっては、どうでもいいようです。

それは、
もっともっと
お大きなっ・・・・・・!!
という言葉からの、
うみ!!
に連なっていく。

で、「うみ!!」は、海をバックに波間に立ちながら言っている。

なんとなーく、浜辺で何かを探している少女から、一人の人間(大人)としての道を歩き始めたのかな? と思わせるような絵です。

つまりは、もう磯辺の影は振り切っているのかな?


・・・・・・という感じで、まとめてみました。

が、思いつくままに、ダラダラと書いてみましたが(我ながら、ひどい乱文だと思う)、自分自身で「これだ!」と腑に落ちているわけではないです。

作中で引用されている「はっぴいえんど」の「風をあつめて」、小梅の親友と鹿島の関係、
俺はお前に
なりたかったん
だって・・・・・・
という磯辺の言葉とか、まだまだ言及しようと思えば、いくらでも言及できます。


そんな、1ページ1ページ、注釈を入れたくなるようなマンガでした。


おまけの感想。

石原先生の「青少年健全育成条例」を挑発するようなエロエロな内容。

こんなに面白いマンガだけど、映像化はムリだろうな・・・・・。

うみべの女の子 1 (F×COMICS)
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うみべの女の子 2 (F×コミックス)
by カエレバ

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