「戦場のメリークリスマス」。
ずっーと前に、深夜でやっていたので、録画をしたのですが、まぁ、これが失敗。
オッサンネタになるのですが、まだVHSの時代でね。
どうやら、野球の放送延長かなにかがあったらしくて、最後の最後で、録画が終わってて。
セリアズが生き埋めになったシーンで途切れており、「この後、どうなったの?」というモヤモヤを抱いたまま、十数年。
ようやく見てみましたが、・・・・・・スゴイね。
大島渚監督の作品で鑑賞済みなのは、「御法度」くらいかな?
こっちは、まぁ、「こんなもんか」程度の感想だけど、「戦場のメリークリスマス」は改めて見ると、オープニングでテーマソングが流れてきた段階で、鳥肌がたってしまった。
で、以前は、なんでもなく見過ごしていたけど、この映画は、朝鮮人軍属がオランダ兵を襲っている(レイプ)から始まっている。
これは、全体を象徴するシーンになっており、男性同士の友愛の物語であることを意味しているんだろうけど、それだけではない。
敢えて、日本人(純粋な? そんなものはないけど)が英米人を襲うのではなく、微妙にズレが生じているところに、この映画を支配する力関係の歪さが、より鋭角になってあらわれているわけでして。
ストーリーは、捕虜であるジャック・セリアズと、坂本龍一さん演じるところの捕虜収容所所長のヨノイ大尉の対立が何度なく描かれております。
対立? うーん、正確には、ヨノイ大尉の勝手な興味かな?
ジャック・セリアズが象徴しているものは、「ヨーロッパ(英米)」「キリスト教」「自由」「被支配」であり、ヨノイ大尉は「アジア(日本)」「神道」「拘束」「支配」。
でも、単純ではないのは、どうやら、ヨノイ大尉というのは、英語が堪能であることから想像できるように、かなり知識人。会話の中で、英国人のセリアズにシェークスピアの原文を引用するほど。
二・二六事件の生き残りで、どうやら自分は生き残ってしまったことを後悔している。(もしかしたら、この戦争の大義にも疑問を持っているのかも)
そういう中で、どんな苦難においても節を曲げることのないセリアズに対して、ヨノイ大尉は、強烈な興味を抱くようになる。
セリアズの中に、自らの苦悩の解決が内在しているのではないかというヨノイの関心は、周囲の人間を不安に陥れるほど。彼の部下はセリアズを殺そうとすらするが、ヨノイは許さない。
最終的には、支配を強めようとするヨノイに対して、セリアズは「許し」を与える。
土壇場になっても膝を屈すること無く、でありながら、暴力に訴えるという手段もとらないセリアズの抵抗に、ヨノイは圧倒されてしまう。
セリアズは生き埋めにされて殺されてしまうが、ヨノイは彼の精神に敬意をあらわして、彼の遺髪を得る。
(つまりは、ヨノイがセリアズに屈した。もっと踏み込めば、ほれちゃったんだよね)
セリアズは、セリアズで、かつて男子校に入学した弟を見捨てたという過去がある。
それによって、弟の精神を見殺しにしてしまったという負い目を感じている。
男子校、つまりは男性社会。
捕虜収容所は、さらに強烈な男性社会。
そこで、仲間の為に、さらには支配層であるヨノイの為に「寛容」「慈愛」(個人的には、キリスト教的というよりは、男性社会に対して、女性的方法によって対抗したのかな?)を示すことで、セリアズ自身も過去から解放される。
閉鎖された特異な状況下における異文化対立、それも「戦争」「宗教」「文化」「国家」といった問題を盛り込んで、観念的&衒学臭くなりそうなところを、うまく緩和しているのは、ビートたけしさんが演じるハラ軍曹の存在。
ビートたけしさんの映画は好きだけど、俳優としては、「そんなに上手?」と感じることも多い。
けど、「戦場のメリークリスマス」では、「野卑」という言葉がうってつけの好演。
捕虜になっている連合国側の兵士を、「なんで死なない。自分なら捕虜にはならない」と愚弄しておきながら、最後には自分も捕虜になっているわけで。
しかも、敵国語であった英語まで習っている始末。
節操が無い、というよりは、現実主義者なんだろう。
だから、捕虜を襲った朝鮮人軍属をヨノイの許可無く勝手に処刑しようとするけど、結局は、ヨノイの立ち会いのもとで、腹を切ることになるわけで。(つまりは、ハラの独断がもっとも合理的な判断であったということ)
自決では恩給が出ないから戦死と処理するといった汚い現場仕事にも慣れており、上からすると、野蛮ではあるけど、使い勝手はいいわけだ。
つまり、現実に合わせて生きているのであって、だから、戦争に負ければ、死ぬことなく捕虜にもなるし、英語も勉強する。
ヨノイとセリアズの対立だけは、七面倒臭い平面的な思想戦になりそうなところを、この人間臭いハラ軍曹&ビートたけしさんの好演で、より作品が深くなっている。
だけども、よく分からんのが、ロレンスに助命をすれば、ハラ軍曹は助かる可能性はあったようだけど、そうはしない。
それは彼の矜持が許さないのかな? ここらへんが、なんか不思議だったりする。
ヨノイとセリアズの対立は戦争を背景にしているわけで、異常な世界。
その異常において、一般人であるハラが正常であるには酔うしかない。
だから、収容所時代に酔っ払い、クリスマスにかこつけて、セリアズとロレンスを解放した際には、ひどく泥酔していた。
観念的な戦いを繰り広げる二人に対する、彼なりの抵抗だった?
だから、セリアズからすれば、逆にハラが異常なわけで、彼を「狂っている」と評するわけだ。
最後の最後、明日は処刑される場面になり、ハラは、冗談めかして、「これからも酔い続けます」と語る。
つまりは、未だに世界は狂っているという、思いがある。
(「自分は普通の兵士がやることをやったに過ぎないのに」と、恨み節を述べているし)
で、朝鮮人軍属が切腹した後に、「日本軍」だけではなく、彼らに拘束されている「捕虜」側も、「どちらも異常だ」と言っていたロレンス。
だから、彼は「これからも酔い続けます」というハラの言葉に対して、「サケは素晴らしい」と返すわけだ。
そして、最後の「メリークリスマス、メリークリスマス、ミスターロレンス」という言葉なんだけど、どこかに通底したものを持っていると感じたハラからロレンスに対する親愛のあらわれだったのかな?