西川美和監督の作品は、「ゆれる」にしても、「ディア・ドクター」にしても、見ている人の価値観が試されるような映画ですが、「夢売るふたり」は、前二作以上でした。
ネタバレですが、開始早々、夫婦で営んでいる酒屋が火事になってしまい、せっかく築いた夢の城を失くしてしまった旦那が、やさぐれて、ろくに働きもせずに昼酒。
しまいには、真面目にバイトに勤しむ妻を詰るといったダメ人間化。それが開始二十分くらい。
さすが、西川美和監督でして、妙に迫るものがあって、見てられない。
鑑賞諦めて、録画しておいた「タモリ倶楽部」に逃げちゃったよ。
つまんなくて見るに耐えないということは往々にありますが、この作品の場合は、痛々しくて見てられない。
小説にしろ、漫画にしろ、映画にしろ、まるで男性社会への復讐のように女性が女性自身を露悪趣味で描くことが往々にしてあります。
まぁ、この映画も、その路線なんだけれども、凡百の作品とは違い、松たか子さんの怪演もあって、メーターが振り切れている感じ。
僕が男性だからなのか、どうにもツライ内容でした。
女性が見ると、また違うのかな?
この映画の筋立てで秀逸なのは、結婚詐欺を題材にしているけど、「男が女を騙す」や「女が男を騙す」ではなく、「夫婦が女を騙す」というところ。
どんなに立派な仕事をしていようとも、結婚や出産を経験していない女性というものは、世間では、まだまだネガティブに捉えられてしまいがちです。
時には、世間が思う以上に、本人が、そう思ってしまったりもします。
で、自らの人生に、どこか欠けているものがあるのではないかと恐れて生きている女性に対して、埋め合わせをしてくれるのではないかと思わせるような男があらわれるわけでして。
もしかしたら、お金でもって解決ができるのではないかと思ってしまい、ついつい差し出してしまう。
この行為が、つまりは、騙す側、資金を得る側からすると、「夢を売る」です。
単純に男性が一方的に女性に売っているのではなく、夫婦で売ることで、物語に異様な緊張感を持たせています。
特に、途中から登場する、「一般的には女性的な魅力に乏しいと評価されてしまうような容姿を持った」(←言葉って便利です)ウエイトリフティング選手の女性に対して、松たか子は、「いくらなんでも、これは無理ね」と言ってしまうのですが、それに対して、旦那の阿部サダヲが、「そんな言い方ねーだろ」と怒るシーンなんかは、もう、なにがなんだか。
つまりは、松たか子からすると、こんな不細工な女は、「女としての」夢を見る権利もないと断罪したわけでして、一方で、旦那の阿部サダヲは彼女にだって「女としての」夢を見る権利はあると主張しているんだけど、じゃぁ何をするかというと、結婚詐欺なわけでして。
この二重三重に倫理的にややこしい展開、そして男女の対立に、なんか、もうグッと疲れます。
で、この夢を売って(結婚詐欺)手に入れた資金で、なにをしたいのかと言うと、炎上してしまったお店の再建。
これも、また「夢」なんだよね。
でも、それは旦那の阿部サダヲの「夢」であって、妻の松たか子の「夢」かと言うと、ちょっと微妙。
それは自分でも自覚しているようだけど、「なんで、そこまで旦那に固執するの?」というのは、どうにも、映画の中には答えはないようです。
強いて言うと、この社会が、未だに暗黙裡に女性に強制していることなのかな?
妻は黙って、旦那に付き従うもの。
で、最終的には、お金も集まり、阿部サダヲが理想とする店が開業できそうになるけど、・・・・・・が、最後の結婚詐欺で、ヘマをしてしまう。
阿部サダヲは、母子家庭の家に入り込むため、得意の料理をするべく、店の再建を象徴する「包丁」を持ち出してしまう。
で、すっかり、そちらの家が居心地が良くなってしまった阿部サダヲは、松たか子のもとには帰ってこない。
彼にしてみれば、相手の家庭を信頼させる為だったのかもしれないけど、松たか子からすると、それは許せなかった様子。
独身の女に言い寄る分には我慢もできるけど、父が不在の家庭に、父親代わりになろうとするのは、彼女の中では一線を越えていると感じたようです。
結婚したら子供を持つべきというのは、それもまた、未だ日本社会が暗黙裡に女性に強制する観念でして、子供のいない松たか子からすると、阿部サダヲのやろうとしていること、度し難い背信行為だったのかね?
で、ラストですが、因果応報的に、阿部サダヲが逮捕されて、刑務所へ。
松たか子は、どうしたのかと言うと、僕の解釈では、刑務所の近くで働いているように思えます。
結局は、旦那と離れられないということを暗示しているのか?
一方で、最初に阿部サダヲにお金をくれた女性には、郵送で返金している。
最初のお金って、騙し取った(夢を売った)わけではなく、炎上してしまった店の常連さんが、お店の再建資金にと、くれたもの。
つまりは、この場合だけは、店の常連さんが、阿部サダヲの夢を買ったんだよね。
で、そのお金を返したのは、おそらくは逮捕された阿部サダヲではなくて、シャバにいる松たか子のはず。
すると、夢が実現したのではなく(お店の再建は失敗して、夢は実現していないからね)、もう必要ないから返金した、ということなのかな? こう考えると、二人は別れた、ということになるのだろうけど。
さて、うーむ、分からん。
とにかく全編にわたって、痛々しい映画でした。
まぁ、面白いんだけど、見るのがしんどかったです。