2014年12月23日火曜日

宮沢えりさん主演「紙の月」見ました


映画「桐島、部活やめるってよ」の監督・吉田大八。
原作は、小説「八日目の蝉」の角田光代。

「こりゃ、つまらないわけないだろう」と、期待して見たきたのですが・・・・・・、まったく注目していなかった宮沢えりさんの独壇場でした。

「たそがれ清兵衛」を見た時に、女優然としてきたなぁ~とは思ったのですが、「大根」ではないけど、「別にうまいってわけでもないね」という感想でした。

が、今回は、加齢による容色の衰えを、役柄上、化粧でごまかすこともできず、映画スクリーンにアップで何度も何度も映していました。

しかも、スレンダーなスタイルを維持しているせいで、顔の輪郭がシャープで、それが、ほうれい線を目立たせるんだよ。

サンタフェの、あの輝くような美貌を覚えている世代としては、「あぁ年取ったな」と思わされましたが、それは、宮沢えりさんも十分に承知しているはず。

でも、そんなことは意に介さず、潔く、薄幸(そう)な信用金庫の営業マンという役に、どっぷりはまっていました。

若いころから、アイドルとして華やかな道を歩んできた彼女からすると、「そういうタイプ」の人間とは無縁な生活だったと思いますが、雰囲気が出ていて、上手でした。

「女優になったな~」と妙に感心しました。


ストーリー自体は、そんなに複雑ではないです。

仕事人間の旦那と不和ではないが、彼に満足はしていない。
金が余っているわけではないが、貧乏というほどではない。

とりたてて不幸ではないものの、幸せを実感できていない。

そんな中、あらわれたハンサムな青年。
彼の為に、何か出来るのではないかと、徐々にのめり込んでいく。

そのうちに、お客の金に手をつけてしまい・・・・。


てな感じで、ありがちと言えば、ありがち。

子供時代のエピソードを交えることで、ちょっとだけ奥行きをつくっていますが、まぁ、そんなに深くはなってないです。

横領が始まってしまえば、大団円で終わるはずもなく、破滅が待っているのは、誰もが予想できること。


「幸せではない」というだけで、とりたてて不幸というわけではないので、若い男にのめり込んでいくことに同情も共感もできない。

ストーリー展開は、分かり切っている。

だけど、前述の通り、宮沢えりさんの演技に引き込まれて、終始、魅入ってしまいました。



おまけの感想としては、大島優子さんが、アイドル女優がやらされがちな、綺麗だけど頭の悪い若い子を演じていました。
上手でしたね。

こちらも、うまく女優業にシフトできるか?



紙の月 (ハルキ文庫)
by カエレバ

2014年12月14日日曜日

「ゴーン・ガール」を見てきました



映画館に行く度に見せられた「ゴーン・ガール」の予告編。

面白そうだな、でも、まぁ、「予告編が一番おもしろかった」ということは、往々にしてあるんだけれども。

で、見た感想としては、面白かったですね。かなり面白かった。


徐々に明らかになっていく、夫婦の関係。失踪した妻の真意。追い詰められてる夫。過剰な報道。世論を煽るマスコミ。(以降、多少、ネタバレがあります)

二時間半の長丁場だけど、「二転三転するストーリー」に、「この映画、どこに落着するんだ?」と、ずっと考えさせられて、まったく退屈しなかったです。(冒頭は、ちょっとダルかった)

ジョンベネ殺害事件のようなお話? と、予告編を見た段階では思っていました。

確かに、最初は、そんな感じ。

ですが、中盤あたりまでで、だいたいの種明かしが終わってしまう。

出し惜しみ無しで、ストーリーが間延びしていないのは良いんだけど、逆に、「これから、どうするの?」と思っていたら、中盤以降は、失踪した妻との心理戦に。


つまり、この映画の肝は、夫婦の力関係なんだよね。


新婚時代の蜜月期が終わり、長い時間一緒にいると、どうしても互いの本性が分かってくる。

そこから夫婦の危機が訪れれば、普通であれば、寛容によって諦念の境地に達するか、厳格さを求めて別離に至るかの、どちらか。


でも、この夫婦は、どちらも選ばない。

映画を見ていると、旦那はとうの昔に結婚生活を見限っているんだけど、妻は、寛容にもなれず、厳格に関係を断ち切ることもできない。

理想的な夫婦を求めるが故に、復讐を決意する。

こう説明すると「なんで?」と思うだろうけど、映画を見ていると、時折差し込まれる彼女の幼少期の環境から、自然と納得できるようになっている。


で、タイトルである「Gone Girl」の意味が、ようやく分かった気がします。

「Woman」でも「Lady」でも「Wife」なく、「Girl」なのは、なんで? と不思議だったんですよ。

映画の冒頭で失踪する(去っていく)のは、どう見ても、大人の女性。「少女」ではない。

外見は大人だけど、中身は子供ってこと?


・・・・・どうやら、そういうわけではないと思います。


彼女は、小さい頃から完璧を求められて育てられてきた。
容姿端麗で、頭脳明晰ではあったけど、それでも「不完全」とされてきた。

つまり、彼女には、「不完全」であることを許さる幼少時代(少女時代)が存在しない。

そのことが「Gone Girl」という意味なのかな?


で、この映画の、もう一つの重要な要素である、「マスコミ(世論)」。

夫に容疑をかけられた段階で、その妹は、事ある毎に、外見を大事にしろって主張するんだよね。

ジョンベネ殺害事件も、そうであったように、警察や司法が取り締まる前に、マスコミや世論が断罪してしまう。(日本だと、STAP細胞の経緯なんか、そうだよね・・・・・)

今の(近代の?)世論って、中途半端を許してくれない。
善人なら完璧に善人、悪人なら完璧に悪人であることを求める。

だから、少々の活躍があっても、後に、ちょっとした瑕疵が見つかると、一気に世論が反転する。
なんて光景は、よくありますよね~?

だから、妹は兄貴に向かって絶えず注意を喚起するし、逆に、失踪した妻は、世論が自分に味方するように、二重三重に仕掛けを用意している。


真実は個人の内面でも、司法でもなく、マスコミによってつくられる。

それって、つまり、妻が、これまで生きてきた現実でもあるわけだ。(だからこそ、マスコミ操作が上手なのだろうけど)


彼女は極端ではあるけれども、SNSの「いいね」「リツイート」「既読」なんかに振り回されている我々も、どこか通底するところがあるんだろうな・・・・・。


日本だと、異質な夫婦の形を描いていると言えば、最近だと「夢売るふたり」かね。
西川美和監督「夢売るふたり」を見て、どうしようもない不安が襲ってくる


ゴーン・ガール 上 (小学館文庫)
by カエレバ

2014年12月4日木曜日

「ブラピの最高傑作」という宣伝文句の「フューリー」を見てきました


本当は、吉田大八監督の「紙の月」を見たかったのですが、時間の関係で、「フューリー」を見ることに。

何度なく、映画館で予告編を見せられていた印象としては、「戦車無双みたいな話?」。

たとえて言うなら、「特攻野郎Aチーム」みたいな、お馬鹿映画?


そのわりには、ポスターには「アカデミー賞最有力」という、「誰が決めた?」という文句がついています。

「どういうものなんだ?」と思って、見てきました。


で、結論としては、第二次世界大戦において、戦車を使った戦闘が、たっぷりと描かれておりました。

それだけであれば、ミリオタ御用達で終わりなのですが、単なるリアルな戦車戦・戦場を描いている他に、絶えず登場人物たちが口にする「神」にまつわる言葉。

なぜに、神は、この地獄(戦場)においても、その御手を我々に差し出してくれないのか? という疑惑から、登場人物たちの精神(魂)は、すっかり荒廃している。


それは(ボチボチ、ネタバレです)、冒頭においてブラッド・ピットが馬に乗ったドイツ軍兵士を襲うシーンから象徴されており、そこでは人間は殺しておきながら馬は逃がしている。

動物の命よりも、人間の命が軽くなってしまっているという、倒錯した価値観、世界があらわれています。


このタイトルになっている「フューリー」とは彼らの乗っている戦車の名前なのですが、意味するところは、「怒り」よりも大きな「憤怒」。

普通に考えれば、「ドイツ軍への怒り」なのですが、映画の中において、繰り返される神の渇望と冒涜の言葉によって、いつまでも救済をしてくれない「神への憤怒」をもあらわしていることがあきらかになってきます。
(キリスト教に造形が深いわけではないので、もしかしたら、教義として「FURY」という言葉には、特別な意味があるのかもしれませんが)


そんな、抹香臭い物語なので、「プライベート・ライアン」では、ちょっとはホッとするエピソードや、コミカルなシーンがありましたら、こちらは一切なし。

とにかく、救いのない、緊迫感のある展開が続きます。


で、「フューリーを選んで、正解だった」と思って見ていたのですが、ラスト間近になって、それまで断裂していた戦車の乗組員たちが一致団結。

さらに、ラストは戦車無双でね・・・・・・。敵は馬鹿ばかりで、考えもなく突撃してくるだけ。

うーむ。

そりゃ、「最後は盛り上げないと」という事情も分かるけど、そこまで派手にしなくても良かったような・・・・・・。


それでも、仲間たちは次々と倒れていって。

で、最後に生き残るのは、新兵一人。

冒頭で逃した(失った)馬らしきものが眠っていた、彼の横を通り過ぎて、終わりです。

つまりは、信仰を取り戻したということの暗示なんでしょうね。


面白かったんですけどね~。

特に前半から中盤までは。
戦闘シーンだけではなく、飯を食っているだけの場面ですら異様な緊張感があって良かったんですが、ラストがね。
個人的には、最後の最後でつまづいた感じです。
(ブラピは手榴弾で殺されたはずなのに、死体が、あんな綺麗なわけないじゃん! と思ったのは、僕だけ? それともキリストの受難みたいものを暗示しているの?)

フューリー (角川文庫)
by カエレバ