2015年5月27日水曜日

「現代小説クロニクル(1975~1979)」


以前、「戦後短篇小説再発見」というシリーズがあって(まだ売っていると思いますが)、普段手にしないような作家の作品に触れられて、大変面白かったです。

こんなタイプが、また出ないかな? と思っていたら、「現代小説クロニクル」というシリーズを見つけて、読んでみました。


この巻に関しては、半分くらい読んだことがあるんですが、しかし、どれも面白かったので、それは気にならなったのですが、値段が二千円近い。

文庫にしては、ちょっと高いですな。


で、肝心の作品の感想ですが・・・・・、冒頭の中上健次が、やっぱり圧倒的です。

作品を、純文学と大衆小説(通俗小説、エンターテイメント小説)で分類するなんて、ナンセンスだけど、「岬」を読むと、やっぱり「純文学だね~」と感じてしまう。

複雑な血縁関係について、まったく分かり易く解説する気がないものね。

時折、ちょっとした回想シーンが挿入されるんだけど、それも、同じような内容ばっかりでね。
繰り返し語られるんだけど、切り口が変わるとか、前とは違った表現が使われるとか、そういう読者へのサービスとか、変わったことをしてやろうという気負いとかないんだよ。

でも、複雑な係累にしても、印象的なエピソードにしても、何度も何度も語られることで、「血の宿命」(陳腐な表現)というものを、読者までもが感じてしまうんだよね。

これが意図したものなのか、偶然なのか。
いずれにせよ、他人に真似できるものではなく、天才的と言うしかない。

久しぶりに「枯木灘」が読みたくなるが・・・・・、アレを読み通すのは、骨でね~。


他には、「僕って何」も面白かった。
最初に読んだのが十代だから、もう二十年前か・・・・・。

若い頃、三田誠広さんは、よく読んでいいたんだけど、やっぱ、これが一番かな。

学園紛争を舞台にして、未成熟な主人公が、学生運動には何かあるのではないかと期待をして近づく。

理論武装した学生たちと出会い、「彼らは何かを持っているのではないか?」という期待を抱く。
が、結局は、彼らも狭い組織の論理で動いているに過ぎず、幻想に過ぎなかったと失望していく過程が、今読んでも鮮やかです。


他は短編ばかり。

中には、(僕の)肌に合わない作品もありますが、そういう出会いが出来るのも、アンソロジーだからねー。それは、それで意味があります。

現代小説クロニクル 1975~1979 (講談社文芸文庫)
by カエレバ

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