2015年3月5日木曜日

東村アキコ「メロポンだし」の感想

東村アキコさんの「メロポンだし」。
全七巻で、最近完結しました。

擬似家族ものです。
「血のつながりのない他人同士が、いろいろな事件を経て、家族的な絆を得る」ってヤツです。

まぁ、擬似家族の形成というのは、普通の家族関係・・・・と書くと問題があるか・・・・、実親と正常な関係が築けていないから発生するわけでして、この物語も、主人公の悟と母の正代は、うまくいっていない。

また、悟の家に転がりこんでくる、宇宙人のメロポンも、父のパピーヤンと、やはり、うまくはいっていない。

互いに傷を持つ者同士て、擬似的な父子関係を結びます。


で、ちょっと変わっているのは、メロポンが宇宙人であること以外では、彼が、地球で芸能デビューを夢見る子供であること。

しかも妙に有能で、事情通、さらにカリスマがあって、子供でありながら劇団を率いて、公演を成功させてしまう。

でも、それだけ有能だけど、やっぱり、まだ子供で、時に悟に頼らなくてはいけない。


さらに、変わっている設定なのは、悟の母である正代は、新興宗教の教祖様。
それも、いつか降臨するであろう宇宙人を崇拝の対象としている。

でも、悟は、そんな母の考えに反発をして、今は別々に暮らしているのだが・・・・・・・、本当なら、メロポンの登場で、悟の誤解(?)というか、わだかまりは解消してもおかしくはないのだけれども、そうはならない。

だって、メロポンは、宇宙人だけど、田舎から出てきた夢見る少年みたいで、別段、超人的な能力は持ち合わせていない。

外見が、ちょっと変わっている以外は、普通の人間と同じでして。
こんなもの(?)では、母の病気(?)をいっそうこじらせるだけの可能性もあり、宇宙人の存在の有無で仲違いしたにもかかわらず、その宇宙人が存在して以降も、息子は、母と仲直りすることはできない。


最終的には、正代は、メロポンを宇宙人としてではなく、地球人と同じ普通の子供であると受け入れることで、悟との関係を修復する。

で、メロポンにしても、父に自分の夢を受け入れさせることで、良好な親子関係に移行する。


また、悟の想い人であり、正代の弟子である真琴は、宇宙人も、近づいてみれば、そこらへんの地球人となんら変わることはないと知ることで、一人の人間として独立していく。


宇宙から唐突にあらわれるメロポンは、受胎・出産のメタファーと解釈することができるかな?

つまりは、「子供に身勝手な期待をするのは止めよう」「子供のあるがままを受け入れましょう」「子供を信じよう」という作者のメッセージが透けて見えます。


そこで終わっていれば、まぁ、普通なんですが、さすが東村アキコさんといったところなのでしょうか?
強烈な反作用の「毒」も、作品には入っています。

それは、この漫画を読んだら、絶対に忘れることのできないトミーさんという老人。

メロポンが主人公にとっての擬似息子ですが、このトミーさんというのは父親・・・・らしい。

最後まで、血のつながりがあるかどうかは明かされませんが、・・・・・・父親であってもおかしくはない、という設定。

前述した通り、メロポンは若く(幼く)、有能で、金もあり、カリスマ性がある。

それに対して、トミーさんは、老いており、無能で、貧乏で、カリスマ性皆無。

作者は、主人公の悟を中心にして、両極端なキャラクターを配置しているわけでして、「これって、なんだろう?」と考えてしまいます。

トミーさんっていうのは、いい年になっても芸能界の夢を諦めることのできない、しょーもない人なんだけど、メロポンの失敗した姿なのかな?

つまり、「大人は、子供の夢を大らかに認めてあげましょう♪」という牧歌的なメッセージの裏に、「ちゃんと教育(矯正)をしないと、どうしようもない大人になるぞ!」という正反対の主張が見え隠れ。


それでも、そんなトミーさんも、最終的には芸能界の隅っこに居場所を見つけられたご様子。

他にも、主要な(濃い)登場人物たち全員に、明るい未来が待っているような大団円なラスト。

同じく東村アキコさんの「主に泣いてます」は、ちょっとモヤモヤの残る最終回でしたが、こちらの方が綺麗にまとまっております。


おまけの感想としては、全編、カラーなんだよね。

週刊連載で、カラーでやったの?
それとも、連載後に、カラーにしたの?

いずれにしろ、他にも連載を抱えながら、ここまでやるんだから、すごいバイタリティーだよ。

これからは、これ(カラー)が、業界の基準になっていのかな?
読んでる側からすると、やっぱりカラーの方が見やすいのだけど、・・・・・作業する方は、大変だろうよ。


東村アキコさんの他の感想。
東村アキコ「主に泣いてます 1-5」読了
東村アキコ「主に泣いてます 6-10(完)」読了



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