「文化系トークラジオ ライフ」を聞いていると、何度も耳にする「浅野いにお」さん。
が、まだ一つも読んだことがなくて、とりあえず手にした「ソラニン」。
映画化もされたし、代表作なのかな?
二巻で完結しているし、直ぐに読めてしまうな、と軽い気持ちでページを開けましたが(電子書籍で読んでいるので、正確には開けないのですが・・・・・)、「こりゃ、ダメだ」と直ぐに閉じてしまいました。
「ダメ」というのは、作品の質が低いというのではなく、むしろ逆で、数ページ読んだけで、「これは、心をもっていかれるタイプのマンガだ。軽い気持ちで読むと後悔する」と、一旦中止。
で、しばらくして、「買ったはいいけど、なかなか読む気になれんなー」という気持ちでしたが、酔っ払った勢いで(←かなり軽い)、読み始めると、予想通り、やめられない、とまらない~。
で、「グサッ」と来ました。
基本は、大学を出て就職をしてみたものの、実社会に馴染めない井上芽衣子と、その彼氏である種田成男の現在の物語。
が、時系列は、自由自在に過去に遡り、大学入学や卒業のエピソードが、ちょいちょい差し込まれます。
そんなわけで、全編では、大学入学の18才から現在の24才まで、六年間が描かれています。
時々で、けっこう細かく主人公の髪型や雰囲気が変化。
「大学入ったばかりっポイ」「ちょっと社会人をかじったクサイ」という空気感が、ちゃんと出ていて、「上手だな~」と感心します。
主人公以外の登場人物も、時代毎に描き分けられていて、また部屋の小道具、町の風景なんかも、みっしりと精緻。
最近の作家さんは本当に大変だなと、思わされるレベル。(でも、これ、十年前の作品なのね、・・・・・小道具は時代を反映して、ちょっと古いけど、作品自体は全然古くないです)
ネタバレのストーリーですが、彼氏の種田はバンドマン。
音楽が好きで、それで食えたらと思ってはいるけど、死ぬほど努力しているとは言えない。
で、そんな姿に怒った彼女の芽衣子は、本気になれと、けしかける。
種田は誰かに批判されんのが怖いんだ!!に対して、種田の返答。
大好きな大好きな音楽でさ!!
でも 褒められても けなされても
評価されて はじめて価値が出るんじゃん!?
・・・それで・・・ ホントダメだと思ったら・・・
その時は その時だけど・・・
・・・その時、どうしてくれる?このヘタレっぷりが、青春ですなー。(読んでいて痛々しい)
一緒に死んでくれるの?
で、まぁ、仕事(アルバイト)も辞めて、種田は本気モード。
デモテープ(デモCD?)をつくって、音楽会社に送る。
どうにか一社だけだが会ってみたいという会社があり、面接に。
でも、それは種田の曲に関心があったのではなく、彼らの技術が必要なだけで、あるグラビアアイドルのバックバンドの誘いを受ける。
ここが重要なんだろうけど、これを、種田ではなく、芽衣子が断るんだよね。
種田の夢を叶えさせようとしている芽衣子ではあるんだけれども、また一方では、社会にうまく馴染めない自分への苛立ちが、彼を追い込んでもいる。
だから、一見すると、種田の代弁として芽衣子が断ったように見えるけど、・・・・・・種田の真意は、どこにあったんだろう?
一応、断ってくれたことに対して、「ありがとう。」と感謝の言葉を述べているけど、その時、種田は芽衣子の顔を直視していないんだよね。
それに比べて、芽衣子は、満足気に微笑んでいる感じ。
うーん。
まぁ、どう解釈するかは、読者の勝手なんだろうけど、種田は、「どっちもアリ」と思っていたんじゃないかな?
バックバンドとは言え、音楽で食えるのは事実。そこから、チャンスもあるかもしれない。
でも、アイドルのバックバンドなんて、自分の音楽を否定しているようなもの。
グラビアアイドルの子は、種田がバイトで画像修正を施していた子と同じなんだよね。
つまりは、音楽で食えるといっても、これじゃ、かつてのバイトと同じ。音楽が食うための仕事に成り下がってしまう。
で、答えを出してくれたのは、彼女の芽衣子。
感謝できるけど、重荷にも感じるようになり、ついには、種田は別れようと言い出す。
それに対して、
「俺がどーにかする」って 言ってたじゃん!! どこまでも あたし達は一緒なんだからって言ったじゃん!!と、過去の種田の発言を持ち出し、彼氏を、なじるわけだ。
おもい! おもいよ!!
で、彼氏は失踪。(まーねー)
でも、かつてのバイト先に頼み込んで仕事を見つけてから、芽衣子に電話。
音楽が嫌いになったわけじゃないから、プロは諦めるにしても、これからも、みんなで楽しもうぜ、てなことを言って、電話は切れる。
そうは彼女に伝えたものの、もちろん、そんな簡単に諦めきれるわけもなく、バイクに乗り、家路を急ぎながら、涙を流す。
そこで、交通事故だよ。
正直なところ、青春モノで交通事故って、便利な小道具なんだよね。
有無を言わさず悲劇的な演出ができる割には、伏線とか面倒くさいことが要らないし。便利、便利!
・・・・・・でも、「ソラニン」においては、この事故が、自殺とも解釈できる。
以前にも、音楽がダメだったら「一緒に死んでくれるの?」と、彼女に伝えているし。
そこが上手と言うか、ちゃんとしていると言うか。
さて、「自殺」なのかな?
どうなのかな?
普通に読むと、事故とする方が無難かな?
直前に彼女に向かって「愛している」と伝えようとしている人間が自殺するわけないようには思えるけど。
が、愛する人がいても、自殺する人は、世の中にはいるわけでして。
まぁ自殺ではないにしても、自暴自棄になっていた、というくらいかな?
で、そういうわけで、種田は現実世界から強制退場。
ここまでが、一巻。
残された彼女の芽衣子が、立ち直っていくのが二巻になります。
(喪失と再生だ! ←今、この言葉は、あんま使われなくなったね)
種田(と彼の夢)に依存していた芽衣子が、彼の代わりにバンドのボーカルになるという、継承という手段でもって、喪失を乗り越えようとします。
あたしって何をやっても中途半端なんだよなぁ。と言う芽衣子だったけど、どうにかこうにか、ギターを物にして、ライブで人前で披露できるくらいの腕前にはなり、・・・・・一応、自立を果たす。
さて、単行本のカバー。
河川敷になっているけど、この漫画って、川を前にして話が進むことが多いんだよね。
種田が、会社を辞めて音楽に打ち込もうと決心をするのも河川敷。
就職が決まった芽衣子に向かって種田が愚痴を言うのも川沿いの道。
その後に、同棲しようと芽衣子が暗に誘うのも川の土手。
大学に入ったばかりで、種田から芽衣子に告白するのも河川敷。
もちろん、これは作者の意図なんでしょう。
で、いつも川の前なんだけど、ついに、それを渡るシーンがあったと思うと、それは、種田が芽衣子に別れようと提案する時。
でも、それは、芽衣子から拒否。
結局、二人は川を渡れず、現状維持。モラトリアムから抜け出れない。
だから、ボートは転覆してしまう。
つまり、川の前にいる彼らってのは、大人になれない、社会に馴染めない象徴なんだろうね。
でも、いつまでも、そんなわけにもいかないわけでして・・・・・。
種田が死に、彼の意志を継承する為に、ライブに挑む芽衣子。
そのライブの直前になって、河川敷で出会ったメガネをかけた子に、
僕はずっとここにいたもん。と言われる。
おねーさんこそ こんな所で何してんの? 迷子?
まぁ、あきらかに・・・・・とまでは言えないけど、どことなく死んだ種田を想起させるキャラ。
種田は、既に生きていないのだから、もう「ずっとここにい」るしかない存在。
そこで、ギターを演奏していると、子供はいなくなり、大学の先輩から演奏が上手になったと褒められる。
無理に解釈をすると、これは成仏をあらわしているのかな。言い過ぎ?
そして、後日、種田との共通の友人で、バンド仲間でもあるビリーは、やはり河川敷で、芽衣子に向かって種田の死を乗り越えてみせると誓う。
で、ライブを成功させて、種田の喪失から、仲間たちは立ち直りを果たす。
だから、最後のページでは、登場人物たちが橋を渡っているシーンで終わるわけですな。
うーん、よく出来ているね。
おまけの感想。
種田の顔って、ライフのパーソナリティである鈴木謙介さんがモデルのように思えるけど、どうなんだろう?
0 件のコメント:
コメントを投稿