2017年11月10日金曜日

女性主人公の行動が尽く真逆「エル ELLE」



「強姦された女性が、弱々しい被害者となるのではなく、毅然と振る舞う映画」という梗概はなんとなく知っていたポール・バーホーベン監督「エル ELLE」。

ようやく近所の映画館でも公開されたので、見てきました。

・・・・・・・感想ですが、もう、なにがなんだかという感じだった。

とにかく、女主人公が、まったく「常識」的な行動をチョイスしない。
冒頭は、いきなり強姦シーンから始まるのだが、犯人が逃げてからも泣くわけでもなく、一応、風呂には入るけど、その後、冷静にデリバリーのお寿司を注文して、息子を出迎える。
「動転」や「動揺」といったものとは無縁、自分の被害よりも、息子の結婚を案ずるという余裕。

以降も、「これで、喰らえ!」とばかりに、まったく予測不可能な行動を続けるわけで、こんなことをしたら、普通なら「ご都合主義過ぎる」とか、「破綻している」と感じるのだけれども、女優さんの演技力のおかげで、不思議と「おかしい」とは思えないわけで。

そして、周囲の人間も、おしなべて「どうかしている」。
で、「どうかしている」登場人物たちの紹介になるわけなんですが、この映画は、主人公との関係性が、徐々に明かされていくところが「面白味」なので、イコール、ネタバレとなってしまうので、未見の方は、お気をつけ下さい。
  • 息子 デキ婚しちゃった上に、自活できないバカ息子。
  • 別れた旦那 売れない作家。若い女の子を引っかけて、ウハウハ。
  • 腹心の部下 仕事上だけではなく、息子の乳母であり、公私共に、信頼を置いている。ちょっとだけ性的にもつながっている模様。
  • 腹心の部下の旦那 主人公とは不倫関係。性欲絶倫で、主人公の意思とは無関係にエッチをしたがる。
  • 会社の部下 一見、主人公に従順なようで、実は、性的に見ている。
  • 母 何才くらいの設定なのかな? 女主人公を演じるイザベル・ユペールさんは、現在、64才。その母親だから、そうすると、80才くらいの設定? 幼少期の悲劇が39年前となっているから、物語上、主人公は50才くらいか? すると、母親は70才? いずれにしろ、けっこうなお年のはずなのに、若い男を囲っている。それでいて、刑務所の旦那には同情的。
  • 父 数十年前に、虐殺事件を起こして、終身刑で刑務所に。
  • ご近所に住む奥さん 経験なカトリック教徒。ちょっと、行き過ぎ? でも、悪い人ではない。
  • ご近所に住む旦那さん 銀行員。一見すると、この中では、もっとも「普通の人」「常識人」。でも、一番、「悪い人」。
てな感じで、「どうかしている」人ばっかり。なので、女主人公の行動も、「うん、まぁ、そうか」と、納得できてしまう世界観。

で、映画では、途中でレイプ犯判明。以降は、「復讐か?」と思ったら、さにあらず。

むしろ、彼に近づいていく主人公・・・・・なんじゃそりゃ? マゾなの? レイプ願望? 色情狂? ストックホルム症候群? と思えども、まぁ、それとも違うわけで、とにかく、「通り一遍の解釈」なるものは、徹底的に通用しないんだよね。


なかなか訳が分からん映画なのだけど、とりあえず、
  • 熱心なクリスチャンであった父親
  • 同じく熱心なクリスチャンである隣人の奥様
という、この二つの軸が、物語を読み解くヒントなのか?

ばんばんネタバレなのですが、主人公の幼少期、父親は、自らの宗教行為が否定されたことに激怒して、大量虐殺に走る。
そして、その父親に、図らずしも(?)、共犯(従犯)関係になってしまった主人公。

で、現在。
大人になった当人は自らを「被害者」と主張するが、他人からは「加害者」と見なされている(場合が多い)。
いずれにしろ、どんなに母親から勧められようとも、刑務所の父に会いに行くことは拒否している。
ちょっと強引な言い回しだけど、「神」やら「信仰」とは、距離を置いている。

そんな彼女が、現在気にかけている存在が、隣人の旦那さん。
奥様は熱心なキリスト教徒で、家の庭には、降誕祭の人形を置いている。
その作業を手伝っている旦那を盗み見て、自慰行為にふける主人公。

他所様の旦那様に欲情する&宗教行為を汚すという、明らかな「冒涜」。

この旦那様が、実はレイプ犯であることが判明するわけだが、つまりは、彼との奇妙な逢瀬(?) or 接触の継続は、強姦という観点からすると主人公は被害者なのだが、隣人の奥様を裏切っているという点では加害者でもあるわけで、「父と主人公」と「隣人旦那と主人公」の構図には類似性があるわけで、・・・・・・まぁ、なかなか映画を一回見ただけでは、安易に解釈し難いものがあるけれども、犯人が判明後も、主人公は彼を警察に突き出す訳でもなく、まるで何事もなかったかのように関係が継続するのは、「父への贖罪の代理」なのか? いや、むしろ、真逆で、「父(神・信仰)への復讐」とするべき?


物語に登場する男たちは、多かれ少なかれ、主人公を従属させようとする。

ゲーム会社に勤める主人公は、(男性的)化物が女を犯すようなシーンをつくっているわけで、あまつさえ犯されている女にエクスタシーを強要するという、「男性社会の論理」に染まってしまっているようで、警察に通報することなくレイプ犯を自らの手で探そうとする当たりは、自立した女性・・・・・・なんて生ぬるい言葉では収まらないような強靭さ。
そんな彼女を母親は「恐ろしい娘」と評し、父親は彼女との再会を拒否&逃避(恐怖?)で自死する。

この物語内の「神」「信仰」は、既存の道徳・価値観であり、それは男性優位の社会を陰に陽に支える存在・・・・・ということなのかな?

「レイプ」という行為は、男性が女性を強制的に従属させる象徴的な行為。
主人公は、犯人判明後も、レイプ犯に随伴するかのように振る舞うことで、彼(彼ら)に従属しているようで、一方で、「神」「信仰」といったものへの反抗でもあるという、歪なねじれ。

実父の死を経由して(反省した?)、主人公は、レイプ犯との関係解消を図るが、うまくいかず。
またしても、彼に犯されそうになるところを、彼女が産んだ息子によって救われるというのも、まぁ、示唆的ではあるわけで。

そして、公私共に大事なパートナーである親友は、自らの旦那を寝取られていたにもかかわらず、その旦那を捨てて、泥棒猫である主人公と同棲というオチ。(いいのか、それで!?)
これまた男性社会への決別とも取れるんだけど、・・・・・牽強付会?

答え合わせとして、原作の小説を読むのも一つの手ではあるけど、それはあくまでも、「原作は、こうなってました」というだけで、それが正解ではないわけで。

なかなか見応えの映画だったので、ほとぼりが覚めた当たりに、動画配信で、ゆっくりと鑑賞したら、また違った風に見えるかも。

エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)
by カエレバ

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