2015年10月9日金曜日

まさかの続編「ルック・オブ・サイレンス」の感想



1965年、インドネシアでにおいて、反共という大義名分で起こった虐殺事件を扱った「アクト・オブ・キリング」。

一見、反省のない加害者に、当時の蛮行を演じてもらうという、「なんじゃ、そりゃ?」という手法で世界的に評判になりました。
今さら見た「アクト・オブ・キリング」の感想


で、まぁ、普通、こういう映画って、一ネタで終わるものですが、まさかの続編「ルック・オブ・サイレンス」。

今度は、殺された被害者の弟が、加害者に話を聞きに会いに行くという流れ。

しかも、「自分は被害者の弟です」という立場を表明していることもあれば、最初は黙っていて、「実は、あんたが殺したのは、おれの兄貴なんだけど?」という往年の「電波少年」もびっくり&どっきりの、突撃です。


基本としては、「現在の被害者家族のシーン」と、この「加害者への突撃インタビュー」の、繰り返し。


「現在の被害者家族のシーン」は、こんな感じ。

痴呆症となった父親と、いまだに事件を恨んでいる母親。

比較的、幸せな家庭を築いている弟。
でも、兄を殺しておきながら、そのことについて、まったく触れようとしない社会に違和感を抱いている。

つまりは、事件により「傷ついたままの家族」が描写されているわけですな。


で、「加害者への突撃インタビュー」は、誰に聞いても、まったく反省も悔恨もない姿が描かれている。
これを見ることで、まぁ、「傷ついたまま」にならざる得ない現況が分かってくるわけです。


「アクト・オブ・キリング」は、彼の地(インドネシア)での選挙や民兵、悪趣味に出来上がってしまった加害者礼賛の映画のワンシーンなんかが挿入されていて、けっこう見応えがありました。

が、「ルック・オブ・サイレンス」は、まぁ、似たようなシーンの連続になっていたので、場面場面の緊迫感(そりゃ、「お前は、単なる人殺しだ!」と詰め寄るわけですから)はあるんですが、正直なところ、単調だなー、と思わないでもなかったです・・・・・・。


で、ず~~~っと気になったのは、殺された兄貴は、どうして殺されたのか? ということ。

そもそも、兄貴の写真とか出てこない。
人柄も、かろうじて加害者側が「いいやつだったかもしれないけど」てな感じで、言及するだけ。

彼についての、印象的なエピソードも、やっぱり加害者が、「こうやって殺した」と述べるのみ。


うーん。

「被害者の一人」ということ以上の情報が、極端に少ないんだよね。

よくあるパターンですと、
「被害者は数字(記号)ではない。彼も一人の人間であった」
ということを強調するために、個人的なエピソードを掘り下げるもんなんだけどね。

ここまで排除しているとなると、これは製作者の意図と見るべきなんだろうなぁ。


彼(兄貴)のことを調べれば、「いい人だった」という情報が出てくるかもしれない。
逆に「悪い人だった」となるかもしれない。

共産党員だったかもしれないし、共産党員ではなかったかもしれない。
独裁に懐疑的だったかもしれないし、政治的な意見など全く持っていなかったかもしれない。


それを言い出すと、キリがない。
だから、冷戦下において、多くの国で起こった政治の狂乱に翻弄されて、亡くなった一人の人間以上でも、以下でもない存在にしたかったのだろうなぁ。

そのことは、加害者側も認識しているようで、弟から詰め寄られても、「お前の兄貴は、殺されて当然の人間だった!」とか、「共産党員だったから、仕方ないだろう」と居直る人はいないんだよね。(もしかしたら、編集でカットされているのかもしれないけど)

兄貴が共産党員だろうとなかろうと、加害者側も、「やり過ぎたな」「そこまでする必要は、あったの?」と、今は、薄々思っているんだよね。(「アクト・オブ・キリング」も、そうだった)
だから、「知らない」「軍が命じた」「そういう時代だった」的な言葉で逃げようとする。


が、被害者(弟)としては、それは受け入れられない言説なわけで。
「謝って欲しい」とまではいかなくても、せめて、やってはいけないことを、やってしまったと自認して欲しいのだけれども・・・・・。


まぁ、別にインドネシアに限らず、どこの国(日本を含む)にでもあるお話なんだけどね。


それにしても、虐殺に加担した加害者を詰り回った、この弟は、こんなに堂々と顔を出して、大丈夫なのかね?

不思議だよ・・・・・。
実際、街の有力者から、「お前は、どこに住んでいた?」と問われて、「危険が及ぶので、私の個人的な話はできない」と言っているし。

しかも自分だけではなく、親や妻、子供まで映画で顔を出しているよ、あんた。
本当に大丈夫?


さらに、加害者側からも、「映画になるよー、君たちの顔を出しても、いいよね?」というOKは、もらっているの?(日本や先進国だと、「加害者側にも人権がある」という観点から、こんな映画は、難しいよね・・・・・)


なんか、こんなところからも、前回の「アクト・オブ・キリング」と同じで、「やらせなの?」と勘繰ってしまうよ。

映像にしても、ドキュメンタリーの割には、妙に映像美にこだわりがあって(前作も、そうだったよなぁ)、・・・・・・そりゃ、絵が綺麗な方が、いいに決まっているけど、なんか「つくりものめいているな」と思わないでも。


そもそも、弟の職業が、メガネの技師というところが、出来過ぎでして。

「ありのまま(真実)を見る為の手助けをしている」という彼の仕事が、そのまま映画での役割とかぶっており、・・・・・・・おいおい、ノンフィクションじゃないんだから。


まぁ、なんかモヤモヤが残るんですが、また一つ勉強になりました。


映画 ルック・オブ・サイレンス パンフレット
by カエレバ

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