いつ死ぬんだよ
現代の馬援と言えば、クリント・イーストウッド。
御年86才。
まだ新作映画をつくるよ・・・・・・。
前作、「アメリカン・スナイパー」も、とても80を超えた監督の作品とは思えない、現代の映画でした。
■クリント・イーストウッド「アメリカン・スナイパー」の感想
そして、今作は、2009年にアメリカで起こった「USエアウェイズ1549便不時着水事故」を扱っています。
■USエアウェイズ1549便不時着水事故 - Wikipedia
たった七年前の出来事。
まぁ、ほんと、「老いてはいよいよ壮(さかん)」です。(下衆の勘繰りだけど、スタッフが優秀なんだろうなぁとは思ってしまうけど。まぁ、その優秀なスタッフの中心に、たとえ象徴としても存在していることで、名作が生まれるのなら、それはそれで、スゴイのだが)
バランス感覚
クリント・イーストウッド監督と言えば、ゴリゴリの共和党支持者として有名です。(ハリウッドでは、民主党支持が優勢で、珍しい存在なのでは?)
■クリント・イーストウッドがトランプ氏支持 「軟弱な時代だ。誰もが発言に細心の注意を払う」
民主党憎しで、トランプ氏でも許容してしまう、「器の大きさ」というか、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」というか、「敵の敵は味方」というか。(THE共和党であるレーガンの後継者として共和党大統領となったパパ・ブッシュ氏も、「こりゃ、駄目だ」と匙を投げましたが・・・・・・。■ブッシュ父「クリントン氏に投票する」 共和党の元大統領が異例の告白)
政治的には、ちょっと偏ったところがあるんだけれども、そして、年を取れば、より偏狭になるものだが、つくる映画は、けっこうバランスがとれているんだよね。
日本でも、たまぁーに、保守色濃厚な作品がつくられることがあるけど、所詮、国内限定にならざる得ない。
それに比べると、クリント・イーストウッド監督の作品は、日本人でも十分に理解できる普遍性を持っているわけで、なんだか不思議。
「優秀なスタッフが、下支えしてるんじゃねーの?」と勘繰りたくなるわけです。
あらすじ
で、「ハドソン川の奇跡」。原題は、機長のニックネーム「Sully」。
まぁ、分かりやすいタイトルが求められるし、「Sully」では意味分からんなのだが、それにしても、身も蓋もない邦題だね。
作品の粗筋。
バードストライクで飛行不能になった飛行機を、機長は見事にハドソン川に着水、奇跡的に乗客乗員に死者を出すことはなかった。
偉業に対して、マスコミは賞賛を惜しまない一方で、政府は、「本当は空港まで戻ることが出来たのに、機長の判断ミスで着水したのではないか?」と疑い始めるのであった・・・・。
「父親たちの星条旗」「アメリカン・スナイパー」でも、一般人が、英雄と讃えられる一方で、歴史・社会・政府に翻弄されるという物語でした。
「硫黄島からの手紙」も、栗林中将はモンスターや英雄というよりも、一人の人間として描かれていましたし、「インビクタス/負けざる者たち」のマンデラ大統領も、似た感じかな? そもそも、主人公は、マンデラ大統領ではなく、(一応は)選手だし。
「ハドソン川の奇跡」も、そんな流れの作品です。
映画の主人公を演じるのは、善人「トム・ハンクス」。
突然の大衆からの英雄視に戸惑いながらも自分を見失ず、家族への愛を忘れず、驕ることなく、かと言って卑下することもない機長が描かれています。
こういうのが、「宣伝くせー」とはならず、「ほっこり」として受け入れられるのも、さすがトム・ハンクスさんです。Rocking Tokyo with my crew. Hanx. pic.twitter.com/U1gG22KHhq— Tom Hanks (@tomhanks) 2016年9月16日
でも、映画内では、分かりやすいニコニコ顔は封印。
敢えて渋面ばかり、・・・・・・でも、善人という演技。ここらへんは、ちょっとヒネったね、という感じ。
なんで、そんな顔になってしまったかと言うと、絶えず政府からミスを疑われているから。
偉くなくとも
主人公は、アメリカ社会において、妻を娶り、子供をもうけ、40数年間、パイロットして粛々と仕事をこなしてきた。
それは、英雄的な行為ではないかもしれないが、アメリカ社会に限らず、ある地域・組織・団体においては、決して恥ずべき経歴ではない。
そして、その地道な積み重ねがあって、「ハドソン川の奇跡」を成し遂げることが出来た。
不幸中の幸い。
しかし、劇中において、機長を追及する側の人間たちは、その粛々と生きてきた彼の人生を、まったく省みようとはしない。
単純にコンピューターのシュミレーションから、「こういう可能性があったはず」と責め立てる。(現代的な世知辛さと言いたいところですし、映画内でも、どことなくそんな雰囲気ですが、まぁ、いつの時代も似たようなもんでしょうね・・・・・・)
よしんば彼の判断が間違っていたとしても、最悪の事態を想定して、現場で出来うる最高の判断を下しに過ぎない。
己の技量を最大限に発揮しての着水だったはず。
ここらへんの、
・「偉くなくとも正しく生きる」を地でいっていたような人物
と、
・傲慢な政府(官僚組織)
の対比は、すごく健全な保守思想を背景にしているようなぁー、個人的には思いました。
で、まぁ最終的には、機長の昔ながらの経験やら知見の積み重ね(過去こそが大事という意味での「保守」ですな)が勝利するんだけどね。
上映時間は90分。
物語上、盛り上がるのは、当然、「飛行機が不調となり、川に着水するまでの流れ」。
普通に考えると、冒頭か最後に挿入するしかないように思えるんだが、映画では、ある程度物語が進行してから、不時着のシーンが挿入される。
しかも二回も。
普通、こんなことしたら、「なんだか冗長だなー、繰り返す必要あるの?」と思ってしまうけど、「機長の判断の、なにが問題とされているのか?」が明確になってから、再度の着水シーンになるので、ちゃんと緊張感を伴って見ることが出来る。
ここらへんのさじ加減も、絶妙ね。
で、映画内では、家族愛を描きつつ、夫婦愛で留めて、無理に娘達を絡ませないあたりも、「分かっているなぁー」。
なんだけれども、あんまりにも、まとまりが良くてねー。
そのせいで、逆に、小品に留まってしまった感じがします。
ハドソン川の奇跡 | ||||
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