2014年11月16日日曜日

地主恵亮さんの「妄想彼女」の感想

さて、地主恵亮さんの「妄想彼女」を読了。

地主恵亮さんが分からない人には、こちらの記事をオススメします。

カッコいいワイルドになる方法


他には、フリー素材として、デイリーポータルZからいただいた、こんな写真を、どうぞ。

こんな

そんな

あんな

感じて欲しい、この得も言われぬ感。


そんな人が書いた、本です。


肝心の本の内容ですが、ページの上半分は「妄想彼女」というタイトル通り、エア彼女(伊集院光さん風に言うと「嘘彼女」)との出会いから、結婚、出産までが、章ごとに分かれて書かれています。

また、文章と一緒に彼女と撮ったとされる、フォトショップ皆無のトリッキーな自撮り写真が掲載。

で、主人公は有能で、スポーツマン、高収入、友人や同僚からの人望も厚く、・・・・・という設定でして、妄想というだけあって、まったく地に足がついておらず、非常にリアリティがないです。

ハワイに行く前に、日本でアロハシャツを着るって、どういうこった?

そんな真っ赤なマネキュアをしている女性が、今時、いるか?

子供の頃は親に連れられてハワイにちょくちょく遊びに行って、高校生あたりではアメリカのスラムで暮らし、それから日本の大学に入学して、在学中は留学し、就職後は仕事で海外に行くことが多い。・・・・・・なんだ、これ!?

細かいことを詮索し始めると、永遠に終わることのない苦難の旅路が待ち受けています。


そして、下半分では、作者である地主さんが、これまで、どれだけモテなかったのか、友人というものがいなかったのか、お金というものに縁がなかったのか、未だに仕事がないのか、切々と訴えます。

これが、「半分はネタだよね? 誇張しているよね?」と心配になるほど、リアリティがあります
真に迫ってきます。


そして、そんな自分でも大丈夫! 彼女といるような(いるように見える)写真なんか、簡単!
ということで、写真の撮り方の解説。

・・・・・・・・・・・・・・・・。



なんで、こんな、本当にやったら、リストカットをしてしまうようなことをしているのかと言うと、作者は以下のように作中で述べています。
世の中、タイムイズマネーなのだ。本当に彼女を作り、同棲するなどの時間がかかることをしている場合ではない。少しでも時間を短縮して行う必要がある。それがこの方法だ。そもそもこのような写真がムダなのではないか、という考え方もあるが、そのような考え方に私は賛成しない。このような涙ぐましい努力が世界を平和にすると信じて疑わないようにしている。
イグノーベル賞に、平和賞部門があれば、けっこう良い所まで行けるのではないかと、僕も思います。


さて、以上のような体裁をとっているので、テイストの違う文章が(ハニーとビター)、上下に分かれております。

バースデーカードを自作しているところ


なので、上の一章を読み終えると、ページを戻って、今度は下の一章を読むという感じ。

めんどくさい。

ゲームブック?


下の文章というのは、上の文章のつっこみという役割があるのですが、上の文章は上の文章で注釈があって、そこでもつっこんでいる。

さらに、つっこみであるはずの下の文章にまで注釈があって、そこでもつっこみがはいっている。

くどい。


しかし、この、上下を行き来し、さらに注釈に目を移さなくてはいけないという、めくるめく読書体験は、僕の心のやらかい場所を なんだか締め付ける。


よくよく考えますと、田中康夫さんの「なんとなく、クリスタル」ですね。

バブル期に書かれた青春(?)小説でして、筋らしい筋はなく、散りばめられた固有名詞と、それにワザワザ注釈をつけることで、単純に流行を礼賛するのではなく、しかしながら、逆に時流を批判するのではなく、アイロニカルな没入とでも言うべき若者の姿勢を描写した作品です。


そして、地主恵亮先生の「妄想彼女」は、上段に理想の人生を創造し、下段では現実の生活を活写することで、一見すると、この構造を用いることで、現代における格差社会の告発となっているようで、そんな簡単ではない。

なぜなら、上段の理想の人生ですら、頻繁につけられる注釈によって、その空虚さが露わになっている。つまりは、決して、手放しで褒めているわけではない。


それは、厳しい現実を描写している下段でも言えることで、酷い青春や悲惨な交遊録、貧しい恋愛遍歴が赤裸々に語られておりながらも、注釈を付け加えることによって、それすらも容赦なく批評することを忘れない。

その厳しい姿勢は、羅針盤の欠く現代社会に生きる若者の姿そのものであり、二つに、いや四つに切り裂かれたアイデンティの描写を通して、現今の世界における病理を、見事に浮かび上がらせているわけです。


・・・・・・・・・・・・・・・と、適当なことを書いてみました。


基本、ゲラゲラ笑って読む本です。

が、時に、あまりに痛々しく、悲しくなりますが。

自虐が過ぎる、と思うことも多々ありました(とても身につまされるエピソードが、メガ盛りです)。


でも、こうするしかないのよね・・・・・。

だって、もう、ここまでこじらせてしまったら、ギャグにするしかないじゃん?

そうじゃないと、犯罪者になるしかないんだから。


さて、さだまさしさんの「道化師のソネット」を聞きながら、枕を濡らして、寝ましょう・・・・。


妄想彼女
by カエレバ

0 件のコメント:

コメントを投稿