出張中の新幹線内で、なんか読んでしまおうと、森薫さんの「エマ」を選択。
全10巻。
なので、7巻を読んでいて、「そろそろ終わりそうな雰囲気もあるが、ここで、また一波乱あるのか・・・・・」と覚悟していたら、サクッと終了。
残りの3巻は番外編。
・・・・・・肩透かし。
まぁ、面白かったですけどね。
以下、ネタバレ。
冒頭は、こんな感じ。
身寄りのないエマは、偶然、家庭教師を生業にしていたケリーに拾われる。
そこで、メイドとして働きつつ、彼女から教育を施される。
それから数年、エマは美しく成長。性格は控え目で、仕事熱心。
多くの男性から求愛されるものの、彼女の心が動くことはなかった。
慎ましやかな生活に満足していたのだが、ある日、ケリーの教え子だったウィリアムが訪ねてくる。
ウィリアムは、資産家の息子。エマに好意を持つが、そのことを、率直に伝えることはできない。
エマにしても、素朴で飾り気のないウィリアムに好感を持つが、身分違いから、自分から踏み出すことはできなかった。
しかし、二人は、ゆっくりと自分たちの気持ちを確かめ合っていき・・・・・・。
「今時、金持ちと貧乏人の恋とは・・・・・・」と思わんでもないですが、森薫さんの密度の濃い絵と、時に「そこまで必要か?」というレベルまで到達した生活風景の細やかな描写、漫画らしい個性的なキャラクター、そして、嫌味がなく好感度の高いエマとウィリアムの二人が、いろいろな障害を乗り越えて愛を手に入れる過程を、ニヤニヤしながら見てしまいます。
それにしても、政治性が皆無な作品ね。
たとえば、今期の朝ドラ「あさが来た」なんかだと、男性社会における女性の働き方を描いており、時代設定は江戸末期から明治なのだが、物語の主題は現代的。
男性主導の社会において、女性は、どう生きるべきか? ということが繰り返されます。
まぁ、朝ドラでは鉄板ネタだけどね。
でも、従来のモチーフから、一歩進んだのは、主人公の「あさ」が、炭鉱に拳銃を持って乗り込んでいくエピソードが象徴していて、彼女は、一旦は暴力によって炭鉱夫の暴動を抑えつけるけど、最終的には、その方法を放棄している。
男根を象徴するかのような拳銃ではなく、独自の女性的なアプローチを経て、炭鉱夫を従えるという流れは、単に男性社会で生きる女性のサバイバル術を指南しているのではなく、凝り固まった現代社会が女性の進出によって、新しい世界を創造していく、・・・・・・というか、そうあって欲しいという作り手の願いが、よくあらわれているエピソードでした。
で、「エマ」。
1890年代のイギリス。
まだまだ職業婦人などが珍しい時代において、主人公がメイドというのであれば、男性社会における働く女性の立場がクローズアップされそうですが、特になし。
また、ウィリアムにはインド王族の友人がいるのだが、そこで宗主国と植民地という力関係はなく、いたって仲が良い。
むしろ、インド王族は押しが強く、ウィリアムが押されているくらいでして・・・・。
また、身分違いの恋というのは、格差社会という大前提があるわけで、二人の恋の成就によって、この解決方法が示唆される・・・・・・てなこともなし。(逆に言うと、悲恋で終わらせることで、問題が浮かび上がってくるなんてこともない)
いくらでも説教臭いお話に転落しそうなものなんだが、そうはならない。
途中までは、「ウィリアムは資産家の立場を捨てて、エマと市井の一庶民と生きる道を選ぶのかな?」と予想していたけど、・・・・・・・そうはならず。
結局、ウィリアムは、資産家のまま。
エマは玉の輿。
時間は必要としていたけど、二人は、多くの知人、親戚の賛同を得て結婚、幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。
失うものは、なんもないんかい。
うーむ。
メルダース家なんかは、「こんな楽しそうな職場なら、メイドや従僕として働きたいよ」と思わせるような、漫画らしいユートピアとして描かれている(マンガトピアとでも、名付けましょうか?)。
まぁね。
物語は物語。
政治性や社会性があるから、いい作品になるとは限らないしね。
不幸になる人間は少ない、女性らしい優しい終わり方で、読後に安心して眠れる作品でした。
エマ 全10巻 完結セット (Beam comix) | ||||
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