2015年5月17日日曜日

えりちん「描かないマンガ家」の感想


以前から気になっていた、「描かないマンガ家」を読みました。

基本としてギャグ漫画なんだけど、普通にストーリー漫画として通用するレベルの絵(最終的には、ストーリー漫画になっちゃうしね)。

最近の漫画は、レベルが高くて、大変ね・・・・・。


主人公の渡部は漫画家になる夢を持ってはいるけど、まったく努力する気がない、つまりはタイトル通りの「描かないマンガ家」。

こいつが自堕落なだけでなく、口だけは立派で、同じ専門学校に通っている学生に、偉そうに文句を言い、説教をする。

評論家が政治家から、批評家が創作者から、コンサルタントが現場の人間から嫌われるのは、手を汚さないから。
大上段から理想論を振りかざすのは、まぁ、簡単だからねー。


「言うことだけは立派」、でも、「努力はしていない」という落差が、この漫画のギャグの基本。

最初の方は、これが繰り返され、時には、「言うことだけは立派」だから、悩んでいる人に勇気を与えたり、問題解決に導いたりします。


が、この黄金パターンを延々と繰り返して安泰でいられるのは、こち亀クラスの大御所でなければ、出来ないわけでして。

渡部と、その仲間が生産性のない日々を過ごすのとは対称的に、専門学校の同級生は、着々に技術を吸収して、いつかはプロになってみせると努力をする。

この堕落組はブサイクな男性ばかりで、努力組は小綺麗な女性が中心。

この対比って、現実を反映しているのかね~?
最近は、普通の学校でも、女性の方が頑張ると聞くけど。
漫画の専門学校も、そんな感じなのかな?

で、女性たちが努力し、失敗し、挫折を味わいながらも、徐々にプロとしての道を歩んでいく・・・・というところで、ストーリーが進展していきます。(渡部は、基本、何もしないから、彼ではストーリーを進めようがないよね)

さて、まぁ、そんな、努力家で、小奇麗な女性が、どうしてか、ダメ人間の渡部に惚れるんだよね。

「そんなのねーよ」なんだけど・・・・・・、まぁマンガだから。(なにも持っていない主人公が、ただただ誠意だけでもって、女達に惚れられるというのは、マンガのお約束ですから)

数人の女性の中で、当初は、明らかに長妻がヒロイン。
でも、彼女が成長すると(漫画家としての道を歩み出すと)、渡部とは絡ませづらくなってしまったのか、ヒロインとしての役割は、徐々にフェードアウト。


で、枝野カンナという超売れっ子漫画家の登場。

彼女が出てきて、ギャグ色は薄れていきます。
代わりに、徐々にストーリー色が強くなってきて、長妻は長妻のストーリー、渡部は渡部のストーリーという感じに。


この枝野カンナというキャラは、登場した当初と、最後では、まったく立ち位置が変わってしまう、複雑なキャラ。(ある意味では、この物語の変化を象徴しているとも言えるかな?)

一貫性がないんじゃない? と思ってしまいたくなるくらいに、面倒な性格しているね。

彼女にとっての渡部は、自らの支配下においておきたい存在。

彼が成長する必要はない。あんなダメ人間を愛せるのだから、圧倒的な母性の持ち主かと思えるけど、むしろ逆で、圧倒的な父性の存在と見るべきなんだろうな。

でも、最終的には、漫画家ではない自分(ありのままの~♪)を認めてくれる男性と出会い、漫画を捨てて、専業主婦となることを選ぶ。

男性的な攻撃性は薄れて、かつては完全に否定していた渡部に対して、あたたかい声援を送るようになっている。


ここらへんの変化は、安易すぎるのではないかな? と思わないでも。(ご都合というほどではないけど)
枝野カンナが漫画を嫌っていた&憎んでいたようには見えなかったからね。



そして、初登場から、渡部に対して好意を持っていた山井(渡部が彼女の特殊な趣味について非難することなく擁護したのが縁。やはり、ありのままの~♪)。かわいらしくて、少年誌でヒット作を描くくらいの才能のある女性。

そんな彼女に支えられて(愛!)、渡部はどうにか漫画家として飯を食えるように。

他の主要キャラも、漫画家として生きており、さらに伴侶もいて、幸せそうに描かれており、大団円!


・・・・・・・なんだけれども。

古谷実氏のマンガで、いつも「納得がいかん!」と思うのは、女性によって主人公が安易に救済されちゃう傾向があること。
(「ヒミズ」は違うけど、映画では、そうなっちゃっていたね)

「描かないマンガ家」も、結局、女の無償の愛よって、男が救われる(努力もしているけど)。

・・・・「なんだか良く分からんけど、いろんな女に惚れられる」というのと同じで、「女の無償の愛によって救済される」っていうのも、きっと、男性の願望なんだろーねー。


前半はお気楽ギャグマンガで、途中で転落のストーリー漫画になり、最終的にはホッコリ落ち着くところに落ち着いた、という感じでした。

描かないマンガ家 1 (ジェッツコミックス)
by カエレバ

0 件のコメント:

コメントを投稿