東北の片田舎に住んでおります。
そんな辺鄙な場所なので、公開される映画は、話題作や大作といったモノ。
なので、だいたい、どの映画を見ても、最低限のレベルはクリアーされておりまして、鑑賞後は「まぁこんなものだなー」「好きな人は、好きなんだろうなぁ」などと上から目線の感想を抱くことが多いです。
ではあるのですが、たまーに、そのフィルターをくぐり抜けてしまう映画もありまして、「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」も、予告編の段階で、「なんだか、あぶなそうだぞ」という予感がビンビンでしたが、「まぁ、でも、それなりには」と自分を説得し、「最悪、映画で再現された長安の風景が楽しめれば、OKでしょ」とハードルをぐんぐん下げてみたものの・・・・・・・・結果としては、普段、摂取しているドラマや映画、アニメ等々が、「普通だな」と思っても、どれだけの配慮と苦労がされているのか痛感せざる得ない内容でした。
概要
今作「空海」ですが、ジャンルとしては、ファンタジー(伝奇・怪奇)歴史ミステリーでしょうか?
ファンタジーと歴史は、どうにかなる。
歴史ミステリーも、適当に散見されるジャンル。
しかし、なんでもアリなファンタジー(伝奇・怪奇)と、ロジックの積み重ねであるミステリーの食い合わせが、どうしたって無理があるわけで。
おおまかなストーリーですが、主人公・空海と、そのパートナー・白楽天が、楊貴妃の死の真相に迫るという流れ。
とにかく説明不足
歴史的な事実としては、楊貴妃というのは、唐の玄宗皇帝の愛人。
玄宗皇帝は、「開元の治」という古代中国の絶頂期を築き上げた一方で、晩年は政治に倦んでしまい、「安史の乱」を引き起こした。
戦乱が長安に迫り、都落ちする皇帝に、配下の兵士たちは、楊貴妃(と、その一族)こそが、混乱の原因だと主張して、彼女の死を望んで蜂起する。
絶望的な状況、いかんともしがたく、最愛の妃を、皇帝は殺すことになるのであった。
「項羽と虞美人」と並ぶ、超有名な悲劇ではあり、この映画の「要」ではあるのだが、その説明が、まったく不足している。
中国史について、最低限の知識を持っている僕ですら、「おいおい」と戸惑うレベルなのに、一般的な観客は「?」だろうなぁ。
歴史的な流れについて説明不足なくらいだから、まして登場人物の心理・心情描写も薄い。
この映画では、異国の地で客死した阿倍仲麻呂が、「実は、楊貴妃に惚れていた」という設定なのだが、そもそも、玄宗皇帝と楊貴妃の関係も、楊貴妃の性格もボヤーンとしているので、そこに大胆な三角関係を導入しても、観ている方が、「ふーん」と、まったく興味がわかない。
そして、この阿倍仲麻呂の横恋慕も、中盤の「かるーいアクセント」で、最終的には「美しき王妃の謎」には、ほとんど関係ない。
「日中合作だから、日本人の著名キャラも出しておかないとね」程度の、まぁ、彩りを整える為のパセリ・・・・・。
結局、「美しき王妃の謎」とやらに関わってくるのは、阿倍仲麻呂と同じく中盤から登場する幻術を得意とする兄弟(厳密には兄弟ではないようだが)でして、・・・・・物凄い重要なキャラなはずなのに、唐突過ぎ。
ミステリー・謎解きに重要なのは、張り巡らされた伏線のはずなのに、いきなり「我々が歴史の裏で動いてました」と、言われてもなぁ。(一応、町で出会った奇術師(?)が伏線ではあるのだけれどもね・・・・・)
強引などんでん返し
ネタバレになるのだが(まぁネタバレだから、どうこうというレベルの映画ではないが)、「美しき王妃の謎」は、
- 仮死状態にしたのであって、実は殺されてません
- 仮死状態にすると偽って、実は殺されてました
なんだけれども、石棺に葬られたことによって、蘇生しても脱出することが出来ず。
玄宗皇帝らから逃げ出した、幻術を得意とする兄弟が救出に赴いたものの、時すでに遅し。
「えぇ!? 死んで欲しかったなら、最初から普通に殺せよ。なんで、一旦仮死状態にする必要があった? 酷すぎる」なわけで、しかも遺体は腐敗していないという摩訶不思議。(結局、仮死状態にしたの? してないの?)
ここらへんの、「ファンタジーだから」という、いい加減さに、困惑するやら腹が立つやら。
空海と白楽天
で、まぁ、主人公の空海と、そのパートナーの白楽天。
彼らの、謎解きに挑む動機も、イマイチ理解し難い。
当初は、「特殊な能力を持つ異国人・空海に、不可解な超常現象に見舞われた中国人からのお願い」という形だったのだが、その依頼者が亡くなってからも、なぜか、事件に執着する空海。
依頼者に対して、思い入れ・親交があったという描写が皆無だから、やっぱり「?」なんだよね。(そもそも論を持ち出せば、空海のキャラも、イマイチはっきりしないし、魅力がない)
一応、パートナーの白楽天は、楊貴妃の悲劇を扱った「長恨歌」製作の為に、謎解きに挑んでいるという体裁なのだが、そもそも、史実の説明が薄いと指摘した点と同じで、この大事な「長恨歌」についても、劇中で、ほとんど触れられていない。(李白の詩については、一応、触れているのに・・・・・・)
そんなこんなで、やっぱり、壁を感じてしまい、どうにも映画に入り込めない。
観客は置いてきぼり。
さらに致命的なのは、この空海・白楽天コンビ。
いわゆる「バディ」。
パターンとしては、ホームズとワトソンになるのだろうけど、・・・・・うーむ。
いろいろな描き方もあろうに(日中文化の違いとか、バトル担当と知能担当に分かれるとか、Xファイルのように超常現象を信じる派 V.S. 否定派とか)、ただただ平板に、「空海の謎解きに、納得する白楽天」という構図が繰り返され、これもこれで映画に引き込まれない要因になっているわけで。
長安の描写
「最悪、映画で再現された長安の風景が楽しめれば、OKでしょ」という期待も、・・・・・安史の乱によって、ある程度荒廃しているはずなのに、まったく、そんな気配のない長安。
まぁ、予算もあるから仕方ないにしても、「開元の治」によって殷賑を極める「長安」と、一応は落ち着いたが戦乱によって凋落に向かっている「長安」を比較させるだけでも、観客には時代背景・設定を理解する一助になるはずなのになぁ。
そもそも、姿格好は古代っぽいが、町並みは唐代というよりは、明清らくいに見えるのは、僕だけ?
というわけで、「さらば、わが愛/覇王別姫」をお勧めします。
というわけで、「さらば、わが愛/覇王別姫」をお勧めします。
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